「身体障害者のバリアフリーのビジネス空間」

(藤田 有貴子,1999)

WHOによると障害には、1)Impairment(機能障害)、2)Disability(能力障害)、3)Handicap(社会的不利)の3段階がある。この論文では、身体障害者の就労の社会的不利を解消し、身体障害者のバリアフリーのビジネス空間を実現するためには、何がバリアになっていて、どういうアプローチをとるべきかを提言する。研究方法は、日本と外国の障害者雇用施策について文献研究を行った後、事例研究として、障害者を雇用している事業主2社、障害者のパソコンをつかった就業支援事業を行っているNPO、社会福祉法人、作業所、授産施設にヒアリングし、各自の意識と取り組みについて調査した。

96(平成8)年身体障害者実態調査によると、18歳以上の身体障害者は、2,933,000人(人口比2.9%)で、前回より7.8%増加している。そのうち、1・2級の重度障害を有する者の割合が前回より増大し、重度化の傾向にあるといえる。就業の状況は、就業者率は、前回調査では34.1%より、今回の調査では、4ポイント減少している。続いて、就職内定率(=就職件数/新規求職申込)も88(昭和63)年より下がり続け、97(平成9)年の就職内定率は、36.8%である。

障害者の就労における能力障害は、移動と効率である。国は、事業主への法定雇用率制度を採用し、301人以上の事業主は、障害者を一定の割合以上雇用する義務があり、雇わない場合は納付金を支払わなければならず、雇う場合は助成金が支払われる。それでも、99年6月現在、一般企業1.8%、特殊法人2.1%の法定雇用率を達成している企業は半数である。つまり、事業主が1人障害者を雇用した方が、納付金を5万円支払うよりも、コストがかかると「判断している」からである。事業主のコストは、@設備などのハード、Aサポートする人材などのソフト、B会社の制度、仕組みの変更にわけられる。@は、助成金制度の活用や窓を半開きにするなどの工夫で負担を軽減できるが、Aは、一部は助成金で負担を軽減できても、事業主の人材育成の考えはそれぞれ異なり、特に養成コストなどは一定の金額では算出できない。養成コストの軽減については、外部の就業支援機関との連携も必要になるだろう。Bも、組織それぞれで金額に算定できず、外部から負担を軽減することは難しい。Bを減らす有効な手段は、障害者雇用の情報の流通を高め、あるいは、障害者雇用が事業主(企業)の評価項目として認知されるようになり、外圧で事業主が変更をしやすくする、あるいはせざるをえない環境を整えるなどである。

もう1つのアプローチは、情報化社会である。パソコンの就業は、作業のバリアを取り除く意味で、既存の障害者にとって有効である。在宅就労が可能になれば、移動のバリアも取り除ける。一部のNPO(NPO法人、社会福祉法人、作業所、授産施設)では、障害者におけるパソコンの可能性に注目し、トレーニングやジョブマッチング、あるいは組織として仕事をとるなどの活動を行ってきた。これらは、徐々にうまくいきつつあり、各地で、新しい試みが起こっている。しかし、それぞれは、まだ規模が小さく、必要としている障害者のニーズをカバーすることはできていない現状だ。しかし、パソコンを使った就業は、身体障害者に通勤しての雇用以外の手段、企業での在宅雇用、SOHOチームの一員、個人事業主という様々な可能性を与えることとなった。また、移動のバリア除去のアプローチには、地域交通の発達という方法もある。

今後、NPOに対するスタートアップ時点での仕事の創造、優先契約、寄付税制など優遇制度が整えば、彼らは、新しい事業主として、身体障害者の雇用を創出していくであろう。むろん、従来の事業主も情報化社会の波の中で、在宅雇用制度を取り入れていくことになるであろう。しかし、在宅就労についてもマネジメントコストの問題や家族の介助負担が増加するなど解決すべき問題は残されている。

それでも、身体障害者のバリアフリーのビジネス空間を実現するのに、必要な物理的インフラは整いつつある。従来、障害であった機能障害や能力障害は、パソコンを使った就業では一部の者にとっては、社会的不利ではなくなり、その範囲は拡大して行くであろう。残されるのは、仕事に取り組もうという障害者自身の意識、そして、身体障害者を迎え入れる事業主や市民の意識の問題である。障害者は特別でなく、みんなが障害者であるという認識を持つことがバリアフリーへの最大要因である。