(2013年12月6日Keio Globalインタビューより)

1. KBSがCouncil on Business and Society (CoBS)を設立した経緯

ビジネススクールは利益を追求しビジネスでの成功を第一義とすると思われているが、私はビジネスの裏側にある事象に目を向ける必要があると考える。たとえば、海外に工場を作ることでコストを抑え、会社としては利益が増える方向になったとする。しかし、その工場が廃棄物や有毒ガス、汚染水などを出せばその国にマイナスのインパクトを与えることになる。ビジネスが成功すればそれでいいという訳ではなく、副産物や環境のこと、その国の人たちの幸せについてしっかり考えてビジネスを行わなければいけない。

ビジネスと社会の間には利害の相反が起こるような課題がたくさんあるので、ビジネス最優先ではなくビジネスと社会の橋渡しをし、「社会のためにビジネスがいかにあるべきか」について研究を深め社会に発信していくことが必要だと考えている。このような課題は国や地域ごとに異なった状態で存在している。たとえば日本やヨーロッパ諸国、アメリカなどの先進国では、環境、エネルギー、経済格差、高齢化の問題を前向きに考えようとしているが、その一方で、発展途上の国ではそういうことよりも国の経済成長の方が大事だとする考え方がまだ優勢だ。しかし、そういう国々も将来的には必ず環境問題に直面するため、早くから有効な方策を検討する必要があり、後になればなるほど対策の選択肢が減ってくる。このような事態を防ぐためにも、世界のトップ・ビジネススクールが力を合わせ、各国の課題を共同で研究し、社会にその成果を発信していくことが必要であるとの考えからCoBSが設立された。

2. KBSのCoBSでの役割(ミッション)を教えてください。

日本は、これまで様々な公害等の環境問題に直面し、経済を成長させながら環境問題にも対応するということにいち早く取り組み、工夫や苦労もしながら、ある程度成果を収めてきた。高齢化の問題も、経済社会がどうあったらいいかという国の制度も含めて、いち早く課題に直面し対応してきた。

現状の日本は、たくさんの社会的な課題に常に直面していることから、しばしば課題先進国と評される。その日本にあるビジネススクールとして、今まで直面してきた課題に対して、産業界と政府が協力してきたこと、産業界が問題解決策を工夫するにあたりそれを大学がバックアップしてきたこと、利益追求の姿勢は社会との摩擦を起こしたが適切な規制の導入などの工夫により解決してきたことなど、過去の実績や経験を世界にもっと発信することが、CoBSにおけるKBSの重要な役割ではないかと考える。

たとえば東日本大震災で直面したエネルギーの問題に対し、どう考えて取り組み、対応してきたか。経済社会としてどのように考えてきたのか、ビジネスと社会をつなぐテーマとしてもっときちんと社会に発信していくことが大切であり、そうでないと日本の存在意義がなくなるのではないかと危惧している。

日本のトップ・ビジネススークルとして、CoBSの活動を通じて共同研究に参加すべきだというのが私の考え方である。私たちが日常生活の中で経験して来た事をKBSとして発信していくべきである。日本は常に最新の課題に直面しているため、その解決策がすばらしく最先端かどうかは分からないが、いち早くその課題の解決策を皆で考えて来たというプロセスは世界の人たちともっとシェアしたらいいのではないかと考える。

3. 第2回国際フォーラムで注目されている点を教えてください。

ヘルスケアというのは、ビジネスの問題と社会の構造的な課題に直面するという問題の両方を含んでいる。

日本は、今世界一の超高齢化社会における様々な問題に取り組もうとしている。医療・介護保険制度の整備が進む一方、医療格差、医師不足の問題が浮き彫りになるなど、ヘルスケアビジネスを取り巻く環境は変化のスピードを上げるとともに、多くの課題が顕在化してきている。これらの問題一つ一つに対応していくだけでなく、医療機関・企業・政府はもちろん、医師や看護師を輩出する大学や地域の人々を含んでトータルにデザインすることが重要になってくる。この巨大な問題を世界でシェアするだけでなく、皆でいろいろなアイディアを出し合いながら、今後各国が順番に直面することとなる課題解決に向けて有意義な研究成果が得られることを期待している。

また、「ヘルス」という意味は、ストレス社会における従業員のメンタルヘルスという意味も含まれている。近年企業・団体等で働く従業員のメンタルケアをしていくことの必要性は急速に高まっており、各企業はそれぞれの企業活動を行いながらヘルスケアのことにも細かく気配りをしなくてはいけない。企業の責任が大きくなっていく中で、日本企業がどう取り組んできているか、日本社会がさまざまなヘルスケアの問題にどう取り組んできたのかということをなるべく「生の声」で日本の取り組み内容を伝えたいというのが次に期待するポイントである。

コストの問題で従業員のヘルスケアを後回しにするケースも見られるが、それはいかなる社会の発展ステージにあっても良いことではないということを、積極的に伝えていきたい。このような諸問題には、経営者の考え方や経営に対する姿勢などマネジメントを変えることで解決していくアプローチ方法や、フォーラムの特徴のひとつでもある「技術革新」やITを含めたイノベーティブなテクノロジーによるサポートを通じた解決方法があることも伝えていきたい。

KBSにはヘルスケア関係の研究をしている教員が複数いるということもあり、このテーマはKBSがホスト校となって率先して世界に発信するべきであると考え、今回は日本での開催となった。

4. 前回のフォーラムで河野先生が興味を持たれたことは?

日本企業や大学はガバナンスに関心をもっているが、日本の中ではガバナンスを強く全面に押し出すよりも、強いリーダーシップへの関心が一般的だと思われる。一方で、ヨーロッパではガバナンスの仕組みに重きを置き、ガバナンスのしくみの中でリーダーシップをどう発揮するかという考え方の方が強く出るケースが多い。前回のフォーラムではこのバランスの置き方に大きな違いを感じた。それらは、歴史、哲学、社会観と密接に関係しているのであろうという気がしており、国と地域によって様々な異なる考え方がある中、グローバル企業は経営していかなくてはいけない、そこに難しさがあると感じた。日本企業がそのようなところに行き、自分の企業がヨーロッパにパートナーがいるだけではなく考え方の違いがある事の場に出て行くと学ぶことも大きいのではないかと思うが、残念ながら現状このような動きはないため、国内の活動が世界には発信されない。それは果たして本当のグローバルなのか、と強く疑問を感じ、また自分にとっても良い勉強になった。

KBSの教員と学生も1つのセッションを担当し、充実した内容を堂々と発表することができた。学生にとっても、さまざまな国の人たちが集まる場で研究成果を発表し、コメントももらえると、モチベーションが高まり、本気になって準備をする。非常に貴重な経験であり、成長のチャンスだったと思う。

5. CoBSの活動に対する今後の展望を教えてください。

イメージは世界経済フォーラム(ダボス会議)。ビジネスと社会というものに対してのダボス会議のように、社会・世界に発信していくのが将来展望の一つである。ただ、現実のダボス会議にあるような政治的な色彩を帯びた方向はビジネススクールとしては好ましくない。大学の研究・アカデミズムがベースとなり、産業界と一緒になって理論と実践の融合という事をバックボーンに、グローバルに課題と解決策を考えるというのが基本スタンスである。その中でCoBSの知名度を上げ、問題提起すると6校が協同で研究するという受け皿になっていけるとCoBSの存在意義が出てくる。大学の研究者としてはとてもやりがいのある挑戦で、国境を越えた課題をどう解決していけばいいのかというのは本当に生の社会の課題であるが、そのような諸問題を解決できないのはビジネススクールとしてどうなのか。現在のCoBSの活動は、テーマを決めて各大学が保有する研究成果を利用し、フォーラムを構成していくことが中心であるが、社会が求めているテーマに対して我々が協同して研究するという方向に進めて行くことも、私を含めた各学校トップの役割だと考えている。

6. KBSが考える国際化とは?

各種の国際会議に参加すると、世界のビジネススクールの動きの速さに驚く。日本の中にいると、世界のスピードにはなかなか目が向けられない。最近ではポーランド等が挙げられるが、彼らはすさまじくアクティブに行動する。どんどん学生を受け入れ派遣し交換を活発化しており、学生たちは何倍も成長して帰ってくる。

KBSの交換留学プログラムは、協定校を32校から41校へと今年で3割増やした。近い将来50校にして、必ず誰か協定校に派遣されるようにしたい。KBSに入ってくるときは英語が出来なくても良い。入学後、海外からきた留学生と一緒にご飯を食べ授業を受けているうちに、自然に英語を話す機会が増えてコミュニケーションが増え国際感覚を増やし、学生に自信を持ってもらいたいと思う。また、KBSではダブルディグリーで海外に行けるチャンスもある。日本の強みを活かす事をベースに置きながら、英語にも接し、国際感覚を養うという両方の要素を大切にしたいと考えている。