慶應義塾大学ビジネス・スクール主催の特別公開講座として、ハーバード・ビジネス・スクールのゲイリー・P・ピサノ教授による講演“Creative Construction:The DNA of Sustained Innovation”が、2018年7月24日(火)、同大学三田キャンパス北館ホールにて、200名を超える参加者を集めて開催されました。
約70年前、経済学者のシュンペーターが、企業は一度自らのビジネスで成功するとイノベーションを起こさなくなり衰退していくのが一般的であると指摘し、彼はこの現象をCreative Destruction と名付けました。この現象についてピサノ教授はAppleやGoogle、IBMによるコンピューター革命を例に挙げ、企業の規模がイノベーションの妨げなのではなく、経営者が3つの“Job”を実行すればイノベーションを起こすことができると説明しました。
まず、1つ目のJobは“Create the Strategy”(=イノベーションに優先順位を付けること)です。ピサノ教授は、イノベーションを〈技術的革新〉と〈ビジネスモデルの革新〉という2軸によって、Create the Strategyを以下4つのタイプに分類しました。
- Routine innovation:既存の技術力とビジネスモデルを利用したタイプ。
- Disruptive innovation:ビジネスモデルだけが変わるタイプ。
- Radical innovation:純粋に技術的な進化から生まれるタイプ。
- Architectural innovation:技術的革新とビジネスモデル双方の変革が求められるタイプ。
一般的に組織は、1.Routine innovationへリソースを投入しがちですが、それでは市場で抜本的な変化が起こった時、他のフィールドにある絶好のビジネスチャンスを逃してしまうと指摘しました。
そこでピサノ教授は、2つ目のJobに“Design the system”(=戦略を正しく実行するためのシステムをデザインすること)を挙げ、イノベーションシステムには以下3つの重要な支柱があると説明しました。
- Search:イノベーションが解決すべき課題は何なのか?誰の問題なのか?といった課題を明らかにする時に重要なポイントは、誰の話を聞いているかではなく、誰の話を聞いていなかったかを考えること。
- Synthesis:優れたイノベーションは多様な社員の多様な考えを組み合わせ、一つのコンセプトに統合しなければ生まれない。例えば、SONYが全てのコンポーネントを持っていたのにiPadを作れなかったのは、スティーブ・ジョブスのような優れたシンセサイザーがいなかったからだと考えることができる。
- Selection:イノベーションシステムの最後の要素は、複数のプロジェクトの中からリソースの配分を決めること。イノベーションにおいて市場は未知で、顧客を特定することも出来ないので、従来の手法は使えない。
そしてピサノ教授は3つ目のJobを“Build the Culture”(=企業文化を作り出すこと)とし、これが最も重要であり、最も難しい課題であると説明しました。一般的に、〈失敗に対する寛容〉〈実現への意欲〉〈協調・協力〉〈自由に発言出来る環境〉〈フラットな組織〉が企業文化を作る上で必要だと言われていますが、それだけでは十分ではなく、更に〈能力のない者に寛容でありすぎてはいけない〉〈協調・協力に加え個人の能力と自己責任が問われる組織文化である〉という条件も必要だと説明しました。
このように、企業文化を実現していくためのプロセスは楽しいことばかりでなく、相当なプレッシャーがかかることが考えられます。ピサノ教授は最後に、「ベンチャーを起こそうと考えている人たちは何らかの独自の企業文化を作らなければならないが、そこで自分たちが何をしようとしているのか、どのような世界を作ろうとしているのかについて、十分に深い認識がなければ成功することは困難である」とのメッセージを残し、本講義を締めくくりました。
参加者の声
- 自社でイノベーションを起こすことは難しいと思っていたが、本日の話を聞いてチャレンジしてみようという気持ちが生まれました。
- 非常に面白く興味深い内容でした。自社に対してどう活用するかについて、本日の内容をヒントによく考えたいと思います。
- 多くの日本企業が抱えている課題にマッチする素晴らしいトピックだったと思います。
- 自社の体質を振り返り、課題がとても明確になりました。
- 日々イノベーションが生まれる環境を如何に創ろうかとチャレンジを続けている身として、大変なヒントと救いをもらえました。
開催概要
タイトル | “Creative Construction:The DNA of Sustained Innovation” |
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講師 | ゲイリー・P・ピサノ教授(ハーバード・ビジネス・スクール) |
開催日時 | 2018年7月24日(火)19:00~21:00(18:30開場) |
会場 | 慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール 会場アクセス |
参加費 | 無料 |
定員 | 200名(先着) |
言語 | 英語 ※逐次通訳つき |
担当講師

Gary P. Pisano/ゲイリー・P・ピサノ
ハーバード・ビジネス・スクール 教授
1983年イェール大学卒業(優等成績)。1988年カリフォルニア大学バークレー校から博士号取得。同年よりハーバード大学ビジネススクールで教鞭をとる。技術戦略、イノベーション、競争戦略、生産管理などの分野で、教育と研究、企業へのコンサルティングを行い、航空宇宙、バイオテクノロジー、製薬、ヘルスケア、コンピュータなどの産業に造詣が深い。また自らもテクノロジー企業XiMo AGを共同設立した。論文著書は70件を超え、著作はこれまでに多くの賞を受賞している。
代表著書
- Pisano, Gary P., and Willy Shih. Producing Prosperity: Why America Needs a Manufacturing Renaissance. Boston, MA: Harvard Business Review Press, 2012.
- Pisano, Gary P. Science Business: The Promise, the Reality, and the Future of Biotech. Boston: Harvard Business School Press, 2006.
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