ファッション産業における協業的取り組みの実現
―アクション分析手法の提案―
M20 大保政二
近年、ファッション産業の活力の低下が、さまざまな局面で現れてきている。複雑な流通経路に起因するリード・タイムの長さや旧態依然とした取引慣行の存在など、これまで内在化していた産業構造上の問題点が、一気に表面化した結果である。そうした中、米国で発展したQRの手法を取り入れ、消費者ニーズに合う製品をスピーディーに生産、供給し、供給プロセス全体としての競争力を高めようとする動きもでてきている。ただ、日本においてはまだ歴史が浅いこともあり、供給プロセスの全体最適を目指したこうした取り組みの成功事例は少ない。
本研究では、産業の構造要因から派生する具体的問題として、在庫や見切り販売の増加という事象をとりあげる。そして、この問題が、生産、流通過程のモノの流れや情報の流れを効率化することで解決が図れる問題であることを示した上、なぜ、そのための取り組みがうまく実現しないのかについて、独自のインタビュー調査や文献調査の結果をもとにして考察している。
多くの企業が、全体最適な取り組みの考え方に総論では賛成しながらも、現実のビジネス・レベルではうまく実現できていない。その大きな原因は、取り組みを実行する各企業がそれぞれの自社目標を追求しなければならない点にある。こうした個別企業の実情を考慮せずに、全体目標を掲げた取り組みの成功はありえない。つまり、全体最適と部分最適の調和を考えずには、問題解決には結びつかないのである。
本研究では、全体最適な取り組みの実現可能性を高めるのに有効な考え方として、個別企業の置かれている実情を考慮し、各企業の個別目標を明示的に取り入れたアクション分析の枠組みを提案する。ここでいうアクションとは、企業あるいは産業が抱える問題に有効だと思える解決策や行動のことである。アクション分析には、アクション表、アクション分析図、組み合わせアクション分析図の三種類の分析ツールを用いるが、それらのつくり方と利用の仕方について、本論文では、期中企画という具件的なアクションを例にとって詳しく説明している。なお、本研究で提案するアクション分析の考え方は、ファッション産業に限らず、他のどんな産業内の企業でも利用可能な、問題解決のための汎用的な分析手法である。