2012.04.12

平成23年度学位授与式 研究科委員長式辞


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まず初めに、本日、4名の博士、そして110名の修士に経営学の学位を授与できたことを、喜びたいと思います。心よりおめでとう。
 思い起こせば、博士の人は数年前、そして修士の人は2年前、この大学院経営管理研究科、通称、慶應義塾大学ビジネス・スクール、KBSに入学されました。そして、他の学年にはない、特殊な経験をしたのではないかと思っています。すなわち、どうしても忘れてならないのは、去年の3月、大きな震災が日本を襲ったということです。修士の方は1年生から2年生に進級する直前でした。私はその日、自宅に帰ることができない状況におかれましたが、最初に感じたのは、皆の安否を確認しなければならないということでした。学年代表や学年担当の先生方を通じ、翌日に皆の安全が確認できたときは、まずほっとしました。
 しかし現在でも、さまざまな環境の中でまだ困難に直面している方々がいます。そういう状況でも勉強するという幸せを得られたことは、特筆すべきことでしょう。こうした勉学の機会を得たということに、大きく感謝をしなければならないと思います。
 今日の学位授与について、もちろん博士の学位とMBA、修士の学位は、性格が違ってはいますが、一つの節目という意味でおめでたいと思う人がおそらく大半でしょう。しかしよく考えてみると、こうした学位というものは、実はいわゆる運転免許の授与、ドライバーズ・ライセンスであるだろうと思っています。
 なぜドライバーズ・ライセンスなのか。第一に、大学という限られた場所で、守られた立場で勉強してきたからです。運転免許を取ってすぐに、大きな都会の人混みの多いところで堂々と車を運転できる人は、ほとんどいないでしょう。たぶん何回か運転をしてみない限り、そうした場所で運転するという経験を踏まなければ、運転能力として十分とは言えません。
 われわれKBSでは、新たな知を開拓し、経営に役立つ実践力を育んで、理論と実践のバランスを取れる多様な人材を育成しようと、一生懸命に教育を行ってきました。知識に裏付けられた経営を実践するスキルが大事という考えに立ってケース・メソッドを重視しています。しかしケース・メソッドは教室での経営実務、討論会の演習という場に近く、KBSに入る前、そして出た後に体験する実務と比べれば、ケース・メソッドで負うリスクというのはクラスの場のみに限られています。
 4月以降、社会に出てもう一度KBSで学んだことを実践するという場面を通じて、皆が学んだことが本当に生きてきます。それを生かしていくことが皆に課せられている責務であり、期待されている役割であると感じています。
 二点目は、活動のフィールドに関わることです。ビジネススクールは多様な人材が集まり、国際色も豊かです。日本にあるビジネススクールですから、日本語を中心の言語としていますが、IP科目やダブルディグリーの人たちには英語での授業も提供しています。グローバル化を志向しているといえるでしょう。
 しかし、実際の経済社会、今の動きを見ていれば、もっと急速にグローバル化しています。KBSがバウンダリーコンディションを決めてグローバルと考えていることよりも、世の中の動きははるかに速いのです。そこには、人間の本質的な欲求を含めたグローバリゼーションの加速があると私は考えています。キャンパスでのグループ討議やクラス討議で、うまくいった、いかなかったということに一喜一憂している暇はありません。何倍も広い場所で、何倍も速く活躍しなければならないからです。
 それでは、皆さんは今日手にしたドライバーズ・ライセンスをこれからどのように使うべきでしょうか。今の日本の状況を見てみれば、先行きは決して明るいといえる状況ではありません。一時期、確かに経済的な発展を享受したかもしれないけれども、現在では失われた何年という言い方で表現されるように、日本の経済は決して好ましい状況でない。そして高齢化とか環境とかヘルスケア、さまざまな問題を抱える状況にあります。
 こうした中で、世界の各地に拠点を持ったり、海外に駐在したりという経験は、これから皆がするかもしれない。そのとき、日本のため、世界のために何をしたらいいか。もっと突き抜けて、経済社会全体を押し上げていくような、そういう活動を是非してほしい。慶應のビジネススクールでも、さまざまなグローバルな活動を頑張ろうとしていますが、やはり学校という看板の中での活動という、バンドリーコンディションの中で生きています。この大学という境界を突き破って、社会の中でみんなが活躍してくれるということが、KBSのブランドを向上させていくことに直結します。そういう役割を皆に果たしてほしいと期待しています。
 こうした活動を皆に進めてもらう上で、どうしても触れておきたいことがあります。学校では学びの場として、教室の中で、基礎科目、専門科目、ゼミ、ビジネスゲーム、といったカリキュラムを組み、皆さんはその中で勉強し議論できる仲間を得たと思います。しかし大学がどうしてもタッチできない、それ以上踏み込めない部分があると私は強く思っています。
 それは人間としての価値観、人間性という部分です。人間として何を幸せと思い、何を価値と思い、何を尊重するか。こうした基本的な部分は皆の価値観に委ねられていて、大学の中でそれを、授業の中で直接に批判することをあえて行ってきませんでした。4月以降、皆がビジネスに帰ったときに、自分の立脚点は、どこだったんだろう、と考えてほしいのです。自分の人間性として勝負できること、あるいは逆に言えば少し弱いところ。人にアピールしたいところ、ちょっとアピールを控えておきたいところ。こんなことをもう一度ぜひ振り返ってほしい。たぶんそれは、博士に入ったころ、あるいは修士に入ったころに考えていたものと、おそらく変わっているだろうと思います。変わっているということが私たち教員の期待なのです。
 KBSの価値は、同窓生として、これからの皆さんの活動に大きく依存していると思っています。これから活躍するときは、今日の学位はドライバーズ・ライセンスにすぎないのだと改めて思い出してほしい。その先を蓄積していくことが、KBSの教育を本当に社会に生かすことであり、ひいてはKBSの価値を上げることであり、後進に貢献することであるというふうに思っています。
 修了できてうれしかったね、よかったねと言っていられるのは、3月31日までのあと二日間であると私は思っています。4月になったら急にギアを入れて、とは言いません。少しずつギアを変えながら、実社会に貢献してください。そしてその結果がまたKBSに返ってくる。そんなM33期であってほしい。これからの皆が活躍していくことが、昨年、日本が震災を受けたときに、皆が学校にいて勉強続けられたことを社会に還元していく唯一の道なのではないか、そのように私は思っています。
 
皆のこれからの活躍に期待したいと思います。今日は本当におめでとう。
  
                                                           慶應義塾大学大学院経営管理研究科委員長
                                                                                                       河野宏和
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