2012.04.20

平成24年度入学式 研究科委員長挨拶

M35期の皆さん、入学おめでとう。初日ということで、緊張している人がたくさんいると思います。スタートにあたって、委員長として皆にいくつかのメッセージを伝えたいと思います。
KBSとは
 この研究科は、通称、慶應ビジネススクール、略称でKBSと呼ばれていますが、正式には慶應義塾大学大学院経営管理研究科という名称です。付属機関として慶應義塾大学ビジネススクールを持っており、そこでは、企業の幹部を育成するためのエグゼクティブセミナーを提供しています。教職員は大学院とビジネススクールを兼務する形を取っています。
MBAとしては35年目ですが、歴史的には幹部人材育成のビジネススクールの方が先に設立されており、MBAコースの前に1年制コースを9年間開講していました。それ以前にエグゼクティブセミナーを提供していた期間を含めると、慶應ビジネススクールとしては今年でちょうど設立50年を迎えます。今年の10月20日に、KBS設立50年の記念イベントを開催します。そういう節目の年に皆さんはKBSに入学されたわけです。
ケースメソッド
 KBSの特徴について、皆に伝えておきたいことがあります。1点目として、KBSは経営学を受動的に教える学校ではなく、自ら発言することでどんどん学んでいく学校だということです。経営学を教員が教えてくれるという気持ちで大学院を選んでいるとしたら、ちょっと明日からの生活は違うだろう、そう思います。
 KBSで主に採用している教育方法はケースメソッドというものです。あらかじめケースを読んで、ケースの当事者になってどういう意思決定を下すか、その理由は何か、ということを皆が議論をする。一人が発言すれば、ほかの人がアグリーであるとか、こういうポイントがもっと付加的に必要だとか、いやいや私はディスアグリーだ、なぜならば、というように議論が展開します。その中から自分が持っていなかった視点を得ることができる。例えばマーケティングの授業であっても、組織のこと、戦略のこと、オペレーションのこと、ファイナンスのこと、こうしたことまで考えないとその意思決定は的確とはいえないのではないか、と言われる。分野横断的に自分の知識を蓄えなければならず、新たな視点に気付くことになります。
 当然に、発言するだけ自分の学びが大きくなります。ただし、しゃべりすぎると仲間からストップがかかって、他の人の意見にも耳を傾けなければならない。実際の経営の場で、組織、あるいはグループを率いていくときにリーダーとして求められる行動と同じことが、教室という場の中で起こるわけです。いわゆる半学半教、あるいは実践と実務のバランス、こうしたことを通じて、机上の経営学ではなく、それを超えた経営そのものを体験し、経営を担うリーダーを育成する、それがKBSの使命です。ですから、教員が一方的に解説し、皆がパソコンを開いてノートをとっていくというレクチャー形式の授業は、専門科目などで一部ありますが、基本的にKBSではほとんどないと思ってください。
 当然に、ケースメソッドについていくためには予習が不可欠になります。ケースを読みこんで準備しなければ授業に参加していることにならない。議論が宙を舞う、何もついていけないということになる。いくらノートをとっても何も役に立たない。そういう勉強の場です。明日からの入学合宿で体験することになると思いますが、まずそのことを肝に銘じておいて欲しいと思います。
T字型人材
 それから2点目、皆にぜひ伝えておきたいことは、KBSがどういう人材を育成しようとしているかということです。我々は、しばしばT字型の人材と呼んでいます。
 Tという字の横棒は経営全般のジェネラルなスキルを意味します。たとえば、組織のトップであっても、「人事畑を歩んできたので生産のことは分からないから、皆さんから勉強しながらこれからマネジメントしていきたい」という方が時々いらっしゃいます。すごく残念なことですね。自分の経験した一部の分野しか知らないということでは、トップは務まりません。組織を引っ張っていくとき、資金の問題、組織の問題、戦略の問題、外部環境の問題、いろいろなことが分からなければ経営はできない。そういう意味で、ジェネラルなスキルほどきちんと勉強して欲しい。これは、KBSのカリキュラムでいうと1年目の基礎科目にあたります。基礎科目では公認会計士の人にも会計の授業を取ってもらい、工場で勤務していた人にも生産の授業を受けてもらう。皆が学び合うという点で、既存の知識をほかの分野の知識と融合させて、自分の中で深めていくことに価値があると考えています。
 もう1本、T字の縦の棒はスペシャリティを意味しています。自分の専門、自らが強い分野がないと、卒業してこれから生き残っていくことはできない。ですから、専門科目を学び、あるいはゼミナールに入って修士論文を執筆する中で専門性を磨いてほしい。修士論文を課しているというビジネススクールは一般的ではありません。欧米でも修士論文のない形態が多いのですが、専門性を深めるという意味で、KBSではゼミは不可欠と考えています。T字の横と縦、両方を欲張って勉強してもらう、そういう意味で非常にタフなカリキュラムであると言えます。
2年間フルタイムでの集中的な学習
 3点目に、これはタフなカリキュラムということに関係しますが、KBSは2年間フルタイムのカリキュラムを課しています。2年間、毎日学校に通ってもらう。従って、仕事を続けながらでは学べません。
 最近、日本では夜間・週末を活用して働きながら学べるという社会人向けの学校が増えています。KBSは、それではいけない、と考えています。昼間働いて、あわてて電車に乗って教室に駆け込んで、会議の余韻が残っている、明日までに会議の資料を作らなければいけない、という状況では、なかなか勉強を深めることはできない。やはり、T字型の素養全般を身につけていくためには、パートタイムという学習環境では不充分だと思います。
 前日にケースをじっくり読みこんで、よく考えてもらった上で教室に来てもらわなければ、ケース討議は実りあるものにはならない。したがって、フルタイムで学校に席を置いて腰を据えて勉強してもらうことが非常に大事だと考えています。日本の経済があまり順調ではなく、さまざまな課題を抱えている現状で、2年間という時間は確かに長いかもしれない。でも、その時間をぜひ有効に使って欲しい。あえてタイトなカリキュラムを課して皆に期待しているところです。
人間性の練磨
 4点目、最後に皆にぜひ伝えたいことを加えます。T字型人材の大文字のTを空中に浮かべて描いてみたとすると、実は非常に不安定ですね。なぜかというと、Tの縦棒の下に何もないからです。上に重しがあってバランスのよくない配置になっています。
 それでは、何がT字の縦棒を支える根底になるのか、そのことをぜひこの2年間で考えて欲しいのです。私は、人間性とか、情熱とか、志といったものではないかと思っています。経営に対して、あるいはリーダーシップに対して、あるいは日本の経済社会に対して、何らかの貢献をしなければいけないという強い気持ち。もちろんMBAの投資対効果という側面もあるかもしれないけれど、それを超えて、リーダーとして貢献したいという強い思いです。そういうものが皆の2年間を支えることになる。それが根底にないと、実は幹が揺らぐのだと私は思っています。2年間、ケース討議を通じてフルフレッジ・フルタイムで勉強するということは、裏返せば、将来のビシネスリーダーとしての礎になる部分、人間的な部分を討議を通じて磨くということなのです。このように、ぜひ2年間の学びを体系づけて考えて欲しいのです。
 今日はまだ皆、緊張している面持ちですが、2年後に学位を授与するときには、大きく成長した皆にもう一度会いたい。そういう期待を込めて皆を歓迎し、入学の言葉に代えたいと思います。
2年間しっかり勉強して下さい。改めて、入学おめでとう。
慶應義塾大学大学院経営管理研究科
委員長 河野宏和

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