2015.04.10

日本学術会議主催学術フォーラムの報告

 3月22日(日)、日本学術会議講堂において、「経済社会の変化に対応した経営学大学院のあり方」をテーマとする日本学術会議主催学術フォーラムが、6つの学会(経営関連学会協議会、全国ビジネス系大学教育会議、日本経営学会、組織学会、日本会計教育学会、日本経営工学会)との共催で開催されました。このフォーラムは、産官学の関係者が一堂に会し、経営系大学院にいわゆる学術系大学院と専門職大学院が併存する中で、両者の共通点と相違点、産業界のニーズへの対応や産業界での人材評価体制、社会人や留学生を含む多様な学生に対する教育の質の保証といった観点から、各大学や企業の取り組みを紹介し、日本の経営系大学院の展望と課題を論じることを目的として開催されました。

 当日は、基調講演として鈴木 久敏氏(筑波大学名誉教授)により経営系大学院を取り巻く問題構造が解説され、天羽 稔氏(デュポン(株)名誉会長)によりグローバルな人材育成の仕組みが紹介された後、下記の6名の方々と共にKBSの河野宏和委員長が、奥林 康司氏(大阪国際大学グローバルビジネス学部長)のコーディネートによるパネルディスカッションに参加しました。各大学での取り組みを中心にパネリストが個別にプレゼンテーションを行った後、会場の参加者並びにパネリスト相互で活発に質疑応答、意見交換が行われました(開催案内パンフレットPDF)。

パネリスト(パンフレット記載順)
平松 一夫氏(関西学院大学理事・商学部教授)
田久保 善彦氏(グロービス経営大学院経営研究科長)
金子 元久氏(筑波大学 大学研究センター教授)
牛尾 則文氏(文部科学省高等教育局専門教育課長)
天羽 稔氏(デュポン(株)名誉会長)
永里 善彦氏((株)旭リサーチセンター相談役)

以下、当日の河野委員長の発言要旨をWeb用に再構成してご紹介します。

経済社会の変化に対応した経営学大学院のあり方 KBSの取り組みについて

KBSの紹介
日本のビジネススクールの現状と課題
1)教員の資質について
2)ビジネススクールの規模について
3)ビジネススクールの国際化について
4)産業界との関係について
5)制度サポートについて
まとめ

KBSの紹介

 まず、KBSについて、簡単にご説明します。KBSは学術系大学院で、1学年100~110名で構成される2年制フルタイムのMBAプログラム(修士課程)をもち、学部はありません。1962年にエグゼクティブセミナーを開催する学校として創立され、その後、1978年に日本初の経営学修士号を授与する修士課程として開設され、今年で38期生を迎えることになります。1991年にスタートした博士課程は、規模は小さいのですが、事例研究や副領域を課すなど、かなりタフなプログラムになっています。

 また、今年の4月から新たにエグゼクティブMBAプログラムを開講しました。これは、所属企業での仕事を続けながら主として週末に学び2年間で経営学修士の学位を取得するプログラムで、職務経験15年以上を入学条件として、中核ミドル人材の育成を目的としています。
 そのほかに、付属するビジネススクール部門がノン・ディグリーのエグゼクティブセミナー(短期で3日間、長期で2週間)を開催しています。

 KBSの学生のプロフィールですが、フルタイムMBAは平均年齢が大体30歳です。KBSの特色として、事業継承者が多く在学し、新卒者は2割程度です。エグゼクティブMBAは、先ほど申し上げたとおり職務経験15年以上を要件としているので、平均年齢は40才前後になります。

 KBSの特徴は、異業種・異文化・異職種の人々が集まる多様性です。起業したい人や新卒者に加え、企業から派遣され修了後所属企業に戻る人もいます。
 教員はフルタイム26名で全員が博士学位を持っています。そのほかに特任教員、特別招聘教員、非常勤教員が約30名で構成されています。8分野全てに専任教員が配置されるフルフレッジ体制も大きな特徴です。

日本のビジネススクールの現状と課題

 以下、日本のビジネススクールの現状と課題について、KBSの取り組みをまじえてまとめたいと思います。本日この場には産業界や文部科学省の方々がいらっしゃいますが、大学関係者の割合が多いと思われます。そのような方々が、学術系大学院や専門職大学院という区分や、DBA(Doctor of Business Administration)という学位を作るべきか否かといった議論をするよりも、もっと根本的に日本の制度やあり方を見直せばいろいろな特徴的な活動を進めることが出来るのではないかと考えています。

1)教員の資質について

 日本のビジネススクールの課題の第一番目は教員の資質です。教員の研究能力、アカデミズムと実務のバランスは、実務家教員比率といった制度論的な対応では解決できない大きな課題であると考えます。

 KBSはミッションを次のように定めています。
 KBSは新たな構想を作り実現するリーダーを育成する。そのために、
 多様な学生がともに学ぶ喜びを知り、世界一線級の研究を発信し、
 実務経験と体系的知識を融合する場を提供する。

 このミッションステートメントの内容は「研究」、「教育」、「交流」で、これらの3つがKBSの主たる活動領域です。教育だけを行う大学院はあり得ません。大学であるからには、アカデミズムに裏打ちされた教育を行わなければ意味がありません。教員は専門の領域で、あるいは分野横断的に、さらには必要に応じて国際的な研究を行い、その成果を教育に還元します。学生は、そうした教員および同窓生のネットワークと交流していく、さらには国際的な交流のチャンスも活用できる、これがKBSの目指す姿であり、ビジネススクールの本来の姿ではないでしょうか。

 すなわち、専門職大学院か否かという制度論で、実務家教員を一定比率入れなければいけない、といった外から制度的な制約を課すのではなく、研究できる教員を揃え、その人たちが国際的な連携を進め、人材育成のための教育に従事する、そこに良い学生・受講者が集まる、という循環が回るというのが本当の姿だと考えています。

 KBSでは、育成したい人材をT字型人材と表現しています。横棒はジェネラリストとしての素養です。一方の縦棒は深い専門能力です。これらの外側に経営者としての志や使命感があり、これら3つの要素を体得してもらいたいという考えでカリキュラムを計画しています。

 教育方法はケースメソッドが中心で、自らが経営者・意思決定者の立場に立って、事例についての判断とその理由を毎日2~3ケースについて議論します。こうした議論は当然一つの分野に留まらず、例えば生産の意思決定には資金繰り、組織、マーケティング戦略などが関係してくるので、教員はいろいろな領域を広く理解し、実務に深く通じていることが求められます。実例を使った双方向のディスカッションを通じて、学生の経営マインドを醸成していく教育方法です。教員全員がこのようなケースメソッドで教える能力を有している、ということがKBSの大きな特徴です。

2)ビジネススクールの規模について

 規模という課題もあります。現在日本の経営系ビジネススクールは31プログラム、定員がわずか1,400名、これに学術系大学院を加えても定員は5,000名くらいで、これは中国でいうと2~3校の規模に過ぎず、日本のビジネススクールの規模的プレゼンスは大きな問題です。経済社会がグローバル化していくと、MBA卒業生が活躍すべき場面は国際的に広がっていくことになりますが、その多くが欧米のビジネススクール、あるいは中国や韓国のビジネススクールの出身者で占められ、日本で勉強したMBAホルダーの活躍の機会が限定されていくことは看過できないと痛感します。

3)ビジネススクールの国際化について

 日本のビジネススクールの国際化の遅れも課題の一つです。これは国際感覚の育成について抜本的に遅れをとっているということです。
 今日のビジネス社会は、急速に情報化、高度化、競争激化しており、高度な経営スキルへのニーズが高まり、一般的にはビジネススクールに対する社会の期待は高まっていると思われます。同時に、国際化も喫緊の課題です。しかしその意味は、単に英語力強化ということではありません。異文化の中で自らの考えを堂々と発信できる力や、異なる意見を受容しつつ論理的に議論できる力がこれからは重要になるということです。もう一つ、社会性、すなわち社会とビジネスの連携、全地球的な視点が重要になっています。これらの変化が、日本のビジネススクールの課題に繋がっています。

 KBSは2000年、2011年にそれぞれ、アメリカのAACSB(Association to Advance Collegiate Schools of Business)とヨーロッパのEFMD(European Foundation for Management Development)という国際的な認証機関から認証を取得しています。日本のビジネススクールでこうした国際認証を取っている学校は非常に少なく、残念ながらKBSともう1校だけです。残念ながらと述べたのは、アジア各国のビジネススクールが続々とこれらの国際認証を取得しているにも関わらず、日本のビジネススクールが国際認証取得に関心を持たず、国際認証機関が開催する会合や、国際的なビジネススクールの団体などに積極的に参加していないという現状を、我々は深く憂慮すべきだと思うからです。

 そういった国際会議には、中国や韓国のビジネススクールからは多数のスタッフが出席しており、最近は東南アジアのビジネススクールからの参加者も増えています。しかしながら、日本のビジネススクール界として何か手を打とうという動きは全く無く、このままではますます遅れをとってしまいます。このような状況にある、ということを日本のビジネススクールは強く認識すべきと考えています。私見ですが、世界の水準に対して20年遅れを取っているというのが日本のビジネススクールの状況だと実感しています。

 KBSは国際化に特に力を入れてきました。例えばインターナショナル・プログラムとして3ヶ月から4ヶ月間留学して、取得した単位を交換出来る、という協定を現在欧米・アジア・南米・アフリカのトップスクール50校以上と結んでいます。それからヨーロッパの3つの学校とダブル・ディグリーの協定を結んでおり、2年でKBSと先方の学校から学位を取ることができます。CoBS(Council on Business and Society)では、世界6カ国のトップ・スクールが共同で社会とビジネスの連携について研究する活動を行っており、アジア太平洋地域のビジネススクール連合であるAAPBS(Association of Asia-Pacific Business Schools)に参加、PIM(Partnership in International Management)という国際的なネットワークにも加盟しています。世界の動きに遅れを取らないよう積極的に活動しています。

4)産業界との関係について

 また、産学の関係にも課題があると考えています。これは産業界の「身勝手」とでも言いたいくらいなのですが、短期促成を求めすぐ使える人を短期間で育ててほしい、同時に自社のDNAこそが重要であるという人事担当者の声を多く聞きます。しかし、これでは経営人材の育成はおぼつかないと思えてなりません。

 例えば、KBSでは3~4ヶ月間の海外留学を奨励しており、入学した翌日から英語のトレーニングを行っています。国際的な経験を積むことを奨励し、経営者としてグローバルに活躍できる能力を育成していきたいのです。志や使命感は「感性」にも関係するかもしれませんが、経営人材を日本のビジネススクールが養成していけば、産業界からビジネススクール並びにMBAホルダーをもう少し評価してもらえると思います。企業が社内での育成に注力し、一方の大学は学問としての厳密性を重視して実務を忘れがちになるという現在の悪循環を断ち切るために、我々ビジネススクール関係者は、もっと積極的に関わっていく必要があるというのが私の感じているところです。

 欧米には学位をもった経営者が多数います。それに比べ日本の経営層には、「OJTで育ってきて営業一筋でやってきたから、財務には疎くこれから勉強します」というようなことを平然と語る方もいて、それはとんでもないことだと思うわけです。日本では、経営人材が圧倒的に不足しています。いままで日本企業は日本経済の成長に伴って伸びてきたから良かったのかもしれませんが、グローバルにその活動範囲が広がり、日本だけでなく世界各国に現地での経営を任せられる人材が必要となっています。このままでは欧米企業のみならずアジア各国の企業との競争に勝ち抜いていけるか、深刻な状況に直面しています。

 学位のある経営者だけが必要だと考えている訳ではないのですが、経営者としてマネジメントやリーダーの役割を担っていける人が圧倒的に少ないのです。この現状をどうやって変えていくか、企業はいろいろな人材を採用したり、育成の仕組みを構築したり、苦労しています。しかし日本のビジネススクールは、残念ながらこうしたところにほとんど手を打てていません。経営人材の不足という問題すら、ほとんど把握できていないのではないでしょうか。こんなことでは日本がつぶれてしまう、というのが私の問題意識です。

 他方、産業界および企業のニーズは多様で、人事部門のスタンスも時代に応じて変化して行きます。それを把握しながらビジネススクールが人材育成プログラムを提供しなければならないことは、大切な要素ではありますが、あまりに企業のニーズにおもねって、そちらの方向にのみ対応しようというのも誤りである、と言いたいのです。そのような方向だけを目指すなら、大学のプログラムよりも利益の上がるセミナー企業を立ち上げれば良い、ということになってしまいます。

 大学人として自分の専門にこだわり、学生を厳しく鍛えて研究論文を書かせる、そして修了した学生と交流し彼らの成長する過程を見守っていく、そのベースに自らの研究があるという姿が研究者としての大切な役割です。大学にいる研究者が教育するというのが本筋で、企業のニーズを十分把握するという努力も大事ですが、自分たちの研究に打ち込むということがあって初めて、経営系大学院としての価値が生まれてくるのだと思います。それらの両方の活動を強化しなければならない、というのが我々ビジネススクール教員に課せられているチャレンジだと思います。もちろん、ビジネススクール側は、人材育成のミッションや研究成果をもっと社会に発信していくべきだと考えています。

5)制度サポートについて

 制度サポートの遅れも大きな問題です。「しばし様子見」「法律に準拠していれば安泰」というような考え方では、社会の変化に対して立ち行かないということです。今日のフォーラムでも、学術系大学院と専門職大学院の同質性や異質性、専門職大学院に博士課程を設置することの適否といった制度の議論に時間が使われていました。もちろん、法的な制度は、学位の質を保証するためにも重要ですが、同時に、産業界のニーズへの対応や国際化の遅れという点で、大学サイドは変革を急いでいかねばならないと思うのです。大学自体が変化に主体的に取り組むこと、そしてそれを法的に支援していくことが、制度面を考える上での前提と思えてなりません。

まとめ

 今年KBSは日本初のエグゼクティブMBAプログラムを開講しましたが、ケース教材の開発を含めてカリキュラムを拡充するなど、これからも常に前進していくことがKBSに求められていると認識しています。今日のフォーラムに参加して、KBSが果たしていくべき役割の大きさを改めて身にしみて感じました。しかし同時に、この場に参加しているパネリストやフロアーの皆で、日本のビジネススクールの展望を明るいものとしていくために努力していくことの大切さも痛感しました。産官学の枠組みとか手続きを議論する前に、根本的な危機意識を共有していくことが不可欠である、そのことが私の心に強く残っています。

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