2015.04.10

平成27年度入学式(MBAプログラム) 研究科委員長挨拶

KBSのM38期の皆さん、ご入学おめでとうございます。研究科委員長の河野です。2年間のスタートに当たって、多くの皆さんがどのような2年間になるのだろうか、と緊張していると思いますが、KBSはどんなところで、どのような勉強をしてもらうのか、そして我々教員がどのようなことを皆さんに期待しているか、ということをお話ししようと思います。

KBSは皆さんがご存知の通り、日本で一番歴史のあるビジネススクールです。1962年に、エグゼクティブセミナーを開催する機関として慶應義塾の中に設立されました。1978年にMBAという学位を授与する大学院修士課程を日本で初めて開設し、以来フルタイムのMBAプログラムを続け、皆さんがM38期生になります(頭のMはMBAのMです)。修士課程の上に博士課程があります。また、エグゼクティブセミナーでは、短いもので3日、長いものでは11日の間、缶詰めになって集中して勉強する経営幹部向けのコースを提供しています。

加えて、この4月からエグゼクティブ向けMBAプログラムを日本で初めて開講し、明日オリエンテーションを行うことになっています。このプログラムは皆さんより少し年齢の高い層向けで、職務経験15年以上という人たちを対象として、職務を続けながら土曜日を中心に勉強してもらうというものです。定員40名で、実際に39名の人たちが明日から2年間学ぶということになります。従ってKBSの修士課程は、フルタイムの皆さんと、EMBAのという2本立てになるわけです。

我々は、ケース・メソッドという授業方法を採用しています。ケース・メソッドでは、皆さんの机の上に置かれているケース、すなわち企業の事例を纏めた教材を皆さんが事前に読み込み、自分が当事者、経営者あるいは意思決定者だったらどういう意思決定をするかを考えます。例えば海外に進出するかしないか、それは何故かといったことを論理的に考え意思決定し、それを翌日のグループとクラスで議論し合うという勉強方法です。従って教員が一方的に教えるのではなく、皆さんが発言し、それに対して他の人が賛成、反対の意見を言ったり足りない点を補足し、また別の人が発言に参加する。こうして、毎日意思決定のトレーニングを繰り返していくという授業方法です。

日本の企業社会では、沈黙していることが賢明だったり、急に質問すると「空気を読めない」と言われたりする場面が多くあります。KBSでは発言しないと成績に必要な点数を取ることができませんが、それよりも重要なことは、ある発言に対して、仲間の学生がさまざまな意見を返してくれたり、異なる視点で発言してくれることで、最初に発言した人の学びが深くなるということです。発言せずただ議論を聞いているだけでは、他の学生の意見が頭の中を通り過ぎるだけで終わってしまいます。発言するほど学びは大きくなりますが、発言するためにはケースを前もって読み込んで、自分なりに分析して、意思決定しておかなければなりません。

毎日ほぼ2ケースずつ授業が行われるので、夕方に授業が終わると翌日の2つあるいは3つのケースを読んで授業に臨む、というタフな状況が続きます。明後日からは下田での入学合宿が始まり、高台にあるホテルで缶詰めになり、毎日ケースを読んでディスカッションを行うというトレーニングが1週間続きます。そのようにして、2年間の勉強に向けて準備してもらうことになります。

ケース・メソッドという授業方法を採っているのは、KBSがどのような人材を育てたいかということに深く関係しています。端的に言うとそれは、ビジネス・リーダー、すなわち企業や組織を引っ張り、新たなビジネスを構想しそれを実現していくリーダー、あるいは既存のビジネスでも、新たな事業プランを考えたり新たな市場獲得に向けて組織を引っ張っていけるリーダーを育成したいということです。評論家ではなく、実際にビジネス社会で活躍できる人材を育成したいと我々は考えています。

では、そのような人達に必要なスキルとは何でしょうか。我々は「T字型人材」と呼んで、大きく3つの要素が必要だと考えています。一つ目は経営全般が分かるということです。「財務には詳しいが他の分野は分からない」、「マーケティングや生産のことはよく知らない」という状態では、経営全般に関わる判断はできません。例えば海外に工場を建てるときには、生産管理はもちろんのこと、戦略、資金、人材、市場などに関する幅広い検討が必要で、様々な分野の知識を融合して意思決定する必要があります。こうした経営全般のスキルはT字の横棒にあたり、経営についてジェネラルに広く知識を持っている、ということが第一に必要だと考えています。

二つ目に、ジェネラルな知識だけでは不充分で、自分が得意な領域、例えば生産のことであれば誰にも負けない、という自分の強みを持っていただきたいのです。これがT字の縦棒にあたるスペシャリティーで、これを磨いていただきたいと希望しています。ケース・メソッドは、この横棒と縦棒の両方を培うのに非常に適した授業法だと思います。専門性を磨くと同時に、一つの意思決定には必ず他の領域が関係している、従って他の領域についても同時に考え、複数のスキルを自分の頭の中で体系化していかなければならないからです。

三つ目、実はこれが一番大切なことだと思うのですが、ビジネス・リーダーとなるために必須なのは、経営をやっていこうという志や使命感です。周りの人を巻き込み引っ張っていけることが必要で、「あの人は、尊敬できない」と言われたのではリーダーになる資格はありません。ケース・メソッドの授業では、発言に対するコミットメントが求められます。実際のケース授業では、発言したことを実行すると想定し、責任を持って発言する訓練を繰り返します。そうすることで、実際に自分が意思決定する状況に直面したとき、最後まで諦めず、周りを率いて自分が決めたことを実現しよう、という気持ちを皆さんに深めてもらいます。

ところで、単に沢山勉強するとか、知識を増やすというだけでは、多様化し急速に変化する社会に対応することはできません。周りの変化の方が早く、知識の量が圧倒的に足りず、不足分をカバーしようといくら勉強しても追いつきません。しかし、周囲の状況を先読みできる、自分の知識が体系化されている、自分の頭で考えることができるのであれば、自分の知識体系を少し応用すれば変化に対応することができます。そのために、T字の横棒・縦棒・マインドセットという体系が大切であることを覚えておいていただきたいのです。

もう一つ、入学の機会に皆さんにお願いしたいことがあります。初めに、KBSは日本で一番歴史があるビジネススクールであると言いましたが、一番歴史があるということは、将来を保証するものではありません。企業と同じで、創業以来の長い伝統がある企業だからといって、将来も成長していくとは限りません。同様に、学校も時代のニーズに応じてどんどん変わっていかなければなりません。研究科委員長として、学校を良い方向に変えていく努力を続けるつもりですが、皆さんにも、KBSの価値を高めていく役割を一緒に担うことをお願いしたいのです。

学部生であれば、「先生に教えてもらい、良い成績をとって卒業」と考えるかもしれませんが、ビジネススクールでは、不満があったら先ず自分でどう直すべきかを考えてほしいし、自分でアクションをとって学校を変えていこうと思ってほしいのです。後輩が「KBSで学びたい」と思ってくれるような認知度向上への協力や、「このような貢献ができる」と皆さんが言ってくれれば、教員も学校を良くしていくことにより前向きに取り組めると思います。

そのように、皆さんが主役になって、学校のブランド価値や社会での認知を高めていくことに協力してほしいのです。ここにいる全員が主役となり、皆さんと異なる経験知を持っているであろうEMBA、博士課程のメンバー、それにエグゼクティブセミナー受講者とも連携しながら、この学校の価値を高めていってほしいのです。そのために出来そうなことがあればどんどん提案してほしいし、KBSの教職員はそのような声に真剣に耳を傾けてくれると思います。

KBSにせっかく入学したのですから、ビジネス・リーダーとしての自分を伸ばし、この学校をより良いものにしていくことを心に留めてほしいのです。どのようなアイデアでも私に直接伝えてほしいし、学年担当や学習指導の教員、あるいは職員スタッフなど、様々なメンバーに皆さんの声を届けてほしいと思っています。改めて、入学おめでとう。2年間充実した時間を過ごして下さい。

2015年4月3日

慶應義塾大学大学院経営管理研究科

委員長 河野 宏和

PAGE TOP