2015.04.10

平成27年度入学式(EMBAプログラム) 研究科委員長挨拶

皆さん、入学おめでとうございます。研究科委員長を務めている河野です。皆さんはエグゼクティブMBAプログラムの第1期生ということで、これからどのような2年間になるのかと緊張した思いを持っておられることと思います。

初めに、我々がこのエグゼクティブMBAプログラムをどのような考えのもとに開設したかについて、お伝えしたいと思います。KBSの歴史から申し上げると、1962年に短期のエクゼクティブセミナーを開催する機関として慶應義塾の中に創設され、1978年に日本で初めて、2年間のフルタイムでMBAの学位を授与する大学院修士課程を開設しました。この大学院を大学院経営管理研究科、セミナーを行う併設機関をビジネススクール、これらを総称して慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)と呼んでいます。

創設以来、セミナー受講者として約17,000名、MBAプログラムの卒業生として約3,500名の人材を社会に輩出してきました。しかし、歴史や伝統がKBSの明るい未来を保証してくれるとは言えない、というのが私の考えです。「フルタイムMBAプログラムが38期生を迎え、セミナーは53年目で伝統がある」というのは、「ずっと既存製品でビジネスをしている」ということに似ています。これだけ時代が変化している中で、大学も新しいプログラムを開発し、カリキュラムを整備していくことが必要です。これが、KBSがEMBAプログラムを構想した「内なる背景」です。

次に「外なる背景」、すなわち社会の側から見ると、グローバル化が進み、競争が激化し、業種・業態の境目が曖昧になっていくという変化の中で、多くの日本企業は社内での人材育成に注力しています。自社の伝統を理解し、そのDNAを持った人材を社内で育成する、という考え方です。ところが海外では、異文化・異業種の中で自分の考えを堂々と発信するという教育や研修の場が数多く提供され、堂々と自分の考えを発言できる人材が評価される社会構造になっています。

日本的なやり方の良さもありますが、今のままで日本企業が将来世界のビジネス社会で勝ち残っていけるのだろうか、という疑問を私は強く感じます。同じ会社や同じ業界・業種ではなく、異業種・異職種、できれば異文化の人たちが集まる環境で学びあい、異なった視点に触れ、相手の考えを聞き、反対意見があれば堂々と発言して議論する、という学びの場が重要ではないでしょうか。特に、近い将来経営を担う人たちに対して、そのようなプログラムが必要だと考えた、というのがEMBAを構想した「外なる背景」です。

次に、これからの2年間でどのように学び、どのような資質を身につけていただきたいかについて、お話ししたいと思います。エグゼクティブMBAでは、「職務経験15年以上」を入学要件としているので、実務経験をベースとして「応用編を学べばよいのではないか」という考え方があるかもしれません。しかし、我々が経営リテラシーと呼んでいる経営に必要な知識やスキルを網羅し、1年目に経営の知識体系をきちんと勉強してもらうことが、カリキュラムの根幹となっています。すなわち、経営リテラシーを高めるため、8つの分野について1ヶ月に1分野というスケジュールでケース・メソッドを用いて学んでいただきます。

ケース・メソッドでは、教員が一方向で教えるのではなく、ケースの当事者の立場で、ケースに記述されているさまざまな経営課題について、いかなる意思決定をなぜするかを発言してもらいます。ある人の発言に他のメンバーが賛成あるいは反対の理由を述べ、議論を通じて授業が進められます。発言した人はクラスのメンバーからの意見をもらい、その分学びが深くなりますが、発言せず聞いているだけでは身につくものは少なくなります。教員は議論の方向性を整理したり、異なる視点、イシューやフレームワークを示して議論を進めます。ですから、教員の講義を聴いてノートに取るというスタイルとは全く異なる授業の方式です。学校に来て双方向での議論に参加し、異業種の仲間とさまざまな視点を学び合い、経営リテラシーを深く身につけてもらうというのが1年目の主な学びの要素です。

1年目では、もうひとつの大きな要素である、経営者としてのマインドセットを身につけていただきたいと思っています。経営の知識を十分身につけていても、会社を変革したりリーダーとして周囲を引っ張っていく役割は別の人に任せたい、というのでは、EMBAの卒業生としてふさわしくないでしょう。会社を変えていく、あるいは新たな事業を起こす、そのとき周りの人々を引っ張っていくリーダーとしての使命感・志を身につけていただきたいのです。

このようなマインドセットは、教室の中での勉強で身につくものではなく、いろいろな学習方法の中で複合的に身についていくものだと思います。たとえば、ケース・メソッドの議論の中で、クラスメートからの批判を受けて自分のマインドセットの足りない部分に気付いたり、毎月経営トップの方々を招いて開かれる経営者討論の授業で、その経営トップが「何故現在の経営理念に至ったのか」というプロセスを徹底的に議論し、経営者としてのマインドセットを学び取ることが必要です。こうした学びから、経営者として組織を引っ張る資質という二つ目の要素を身につけていただきたいと考えています。

三つ目の要素は、グローバルな視点の涵養です。世界各地のビジネスにどんな課題があり、なぜビジネス以外のセクターと対立や矛盾が生じるのか、といったことを深く考え、課題解決に自らが貢献していこうとする視点、と言った方が良いかもしれません。単に事業をグローバルに展開して売上や利益を増やすだけではなく、世界各地の風土・文化・歴史・宗教といった環境の中で、ビジネスを展開していくためにはどのような課題があるか、その上で自分のビジネスプランを展開していけるような国際感覚を身につけるということです。

EMBAプログラムでは、海外から講師を招いたり、海外にフィールド・スタディーに出かけていく機会を用意しています。なるべくこれらのコースに参加していただきたいのです。なぜならば、ブロークンな英語で構わないので、自分の思っていることを伝え、相手の意見に異論があればきちんと意見を述べるという感覚が、海外でビジネスを展開していく上で非常に大事だと思うからです。こうした国際感覚、国際人としての資質を身につけていただきたいのです。

四つ目の要素として、「即効的に、明日すぐ役に立つ」事柄だけでなく、30年から50年先の経済社会を考える、という視点を是非持ってほしいと考えています。皆さんの次の世代が携わるビジネス社会が日本・アジア・世界でどのように変化していくのか、その中でどのように貢献し、どんな課題を解決していかなければならないかを考える視点を持ってほしい、ということです。

企業の人事部門の方の意見を聞けば、「明日から役立つ知識やスキル」が重視されるかもしれません。投資対効果という観点からは、「30年後よりも1年後に効果が出ることを考えたい」という意見が出るかもしれませんが、それでは適切ではないと思います。我々は、自分、自分の組織、自分の会社にとって足りないものは何かを日ごろ考えますが、少し長いスパンで将来を見通すと、根本的に重要な問題があることを発見できるかもしれません。そうすると、ビジネスリーダーとしてどのように行動すべきかが変わってくるかもしれないのです。ですから、単に自分に不足している知識を補うだけでなく、広く社会に貢献するリーダーとなるために、長期的な視点を身に付けていただきたい。これが四つ目の要素です。

皆さんは平日フルに仕事をされて、土曜日中心に授業があり、時々合宿などで金曜日や日曜日にも勉強していただくことになります。また、水曜日夕方にも受講していただける授業を配置しています。文部科学省が指定している大学院修士課程修了要件は30単位ですが、これでは先ほど申し上げた経営リテラシー、マインドセット、国際感覚、長期的な視点という要素をとてもカバーできないため、これより多い50単位の履修を修了要件と設定しています。

勉強量が大変という感想を持たれるかもしれませんが、将来の経営を担う中核人材の方々がせっかく集まっているのですから、出来るだけ多く議論をし、ネットワークを作り、お互いに学び合っていただきたいと思っています。教員が教えて皆さんが勉強するという一方通行ではなく、これだけのメンバーが揃っているのですから、慶應義塾の精神である「半学半教」の考えに立ち、皆さん同士で議論して高め合うという効果が極めて大きいと期待しています。

最後にお願いがあります。第1期生の皆さんは、EMBAの将来の方向性を大きく左右するかもしれません。もちろん研究科委員長や、教職員も努力していきますが、もし足りない点や「こうしたら良いのではないか」というアイデアがあれば、率直に言っていただきたいのです。EMBAのブランド価値を高めていくことを目指し、KBSのコミュニティーの一員として、一緒にプログラムを作っていくことに協力していただきたいと思っています。それが、来年以降もEMBAに素晴らしい仲間が引き続き集うことに繋がっていくと思います。皆さんと接する時間を増やし、皆さんの2年間の勉強をサポートしていきたいと考えています。

入学のお祝いとともに、四つの学びの要素、KBSのEMBAの1期生として活躍してほしいという想いをお伝えし、研究科委員長としての挨拶と致します。2年間、ともに楽しい時間を過ごしたいと思います。あらためて、入学おめでとうございます。

2015年4月4日

慶應義塾大学大学院経営管理研究科

委員長 河野 宏和

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