2016.02.04

講演開催報告:キヤノン株式会社 取締役 長澤 健一氏

2015年の年末も押し迫った12月7日(金) 16:30から日吉キャンパス協生館5階のエグゼクティブセミナールームにて、キヤノン株式会社取締役で知的財産法務本部長の長澤健一氏をお招きし、知的財産に関する講演会が開かれました。出席者は45人程でした。
キヤノン(株)の簡単な会社概要の紹介の後、企業における知財活動の経営上の意義の説明がありました。キヤノンがかつて強力な競合企業に挑戦していた過程で知財重視の風土が定着し、単なる自社技術・製品の保護から事業戦略の武器へと知財に対する認識を変化させた歴史が語られました。技術開発は製品を出して完了ではなく、独自技術の権利化まで行なって完了するものであること、知的財産は金銭化するものではなく、事業が稼ぎ出す利益を守るために用いられること、例えば、新規の競合他社に対する参入障壁となること等が強調されました。そのためには知財戦略は自社の事業の状況や製品の特性に応じて、その目的も、特許出願の仕方も第三者特許への対応も変化させなければならないとのことです。
次に、企業活動のグローバル化への対応の変化についての説明がありました。特に新興国の動きへの対応についての状況が紹介されました。新興国も知財の活用の仕方が次第に巧妙になってきています。例えば、わずかな改良を実用新案として権利化し、それをもとに訴訟を提起して差止を請求し、競合メーカーの締め出しを図ろうとする動きがあります。これに対してはそのような権利に対する異議申立等で権利の減縮や無効化などを行って対抗し、反対に新興国が特許侵害をして製品を出す場合には逆にこちらが訴訟を提起して相手を交渉の場につかせるなどの活動を徹底して行う必要があります。しかし新興国は訴訟で負けても一旦会社をたたんで別会社を設立して生き延びようとすることもあります。また技術供与するとその改良を新発明として勝手に出願し権利化しようとすることもあり、行儀の良い交渉だけでは済まないとのことです。
このような現状から、契約力の強化、交渉力の強化、知財侵害者への差止め請求などの権利行使を妥協なく徹底して厳しく行い、キヤノンの知財は尊重しないと怖いという認識を、実績を伴った形で積み上げて、問題の発生そのものを防ぐようにしているとのこと。
講演の後半では最近の技術の進歩に伴う環境の変化への対応についての紹介がありました。最近の知財環境の変化とはIoTの急速な発展、特許権の技術価値の希釈化(一つの製品に関わる特許の件数の飛躍的な増大)、ICTの発展による従来の業界の枠を超えた知財競合の出現、特許数の増大による変化(特に、資金力がない企業は多数の知財訴訟の費用負担に耐えきれなくなる)、PAE(自社では生産せず自社が入手した知財の権利行使のための訴訟をして法外な特許使用料や賠償金を取る企業)による過度の差止請求権の行使などです。これらについては個別の私企業だけでは対応しきれないものもあり、知財の制度上の改変も始まっています。日本、米国、中国の間でも対応の仕方はそれぞれ違っています。日本の強みと弱みをよく考えながらフェアな特許制度を作っていく必要がありますが、それはまだ完成しておらず改革途上にあります。講演の最後では聴衆に対して、一緒に日本の産業を支えましょう、と呼びかけがなされました。
活発な質疑応答が30分近く続き、盛況のうちに講演会が終了しました。

M37 近江 和明

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