2016.04.21

平成28年度入学式(EMBAプログラム) 研究科委員長挨拶

入学おめでとうございます。皆さんは、昨年開講したExecutive MBA(EMBA)プログラムの2期生です。初めに、なぜKBSがEMBA開講を構想したか、EMBAプログラムのねらいや特徴を皆さんにお伝えしたいと思います。

世界の経営人材育成の動きを見ると、伝統的なMBAプログラムに加えてエグゼクティブ層にターゲットを絞ったEMBAプログラムが増えています。近年は欧米だけでなく、中国・韓国・タイなどアジア地域でも数多く開講され、こうしたEMBAプログラムの修了者が世界のビジネスの場で活躍しています。KBSではEMBAの他に2年間のフルタイムMBAプログラムも提供していますが、職場の状況から休職するのが困難であったり、変化の激しい時代に2年間職を離れることをためらう人もいると思われます。2年経つと経営環境が大きく変化し、自社のビジネスや経営陣すら変わってしまうことを懸念する人もいるでしょう。こうした事情もあり、日本では、企業もそこで働く人たちも、OJTを受けながら、仕事を通じて経験知を蓄積し、職制を上げていこうという考え方とキャリアパスを選択するケースが一般的です。

一方、海外で外国企業との交渉に臨むとき、相手がMBAホルダーやPh.Dであることは少なくありません。学位が全てを語る訳ではありませんが、経営を専門に勉強してきた人たちが皆さんの交渉相手になるわけです。他国から一目置かれていた以前の日本企業ならともかく、人口減少等さまざまな課題に直面している中で、社内の経験知と日本的なヒエラルキーに依存した従来の経営人材育成方法で、日本企業が世界で勝負していけるか、私は大いに心配な状況にあると思うのです。

KBSのフルタイムMBAプログラムは1978年にスタートし、平均年齢30歳前後の学生が毎年入学してきます。一方でそのくらいの年代の頃に何らかの事情でMBAを取得せず、会社の中核として経営に参加することが期待される年代になって、もっと勉強したいと強く感じている方がおられるのではないか、そうであればその方々に門戸を開きたいと我々は考えました。第一に、日本の将来を考えたとき、経営人材を育成する専門の教育が必須であること。第二に、もっと勉強したいという方々のニーズにきちんと応えなければならないこと。こうした考えに基づいて、2015年4月にEMBAプログラムをスタートしました。

まず、EMBAプログラムの開講形態についてお話しします。海外のEMBAプログラムでは、2~3か月ごとに世界各地の会場をローテーションしながら合宿のセッションを行うというパターンがあります。日本に多いのは、平日夜間に開講するというパターンです。しかし、平日夜間は、業務が長引いて授業に遅れたり、出張などによる途中退出が常態化する可能性があります。また、年に何回も仕事を空けて中・長期間の合宿形式の授業に参加することは、日本の企業風土のもとでは受け入れられないと考えました。そこで、仕事と勉強を両立させながら双方に集中できる環境として、土曜日中心に開講し、要所で合宿を組み込むカリキュラムを採用しました。

次に、EMBAプログラムのコンテンツ/カリキュラムの特徴と特徴的な科目について、幾つかお話ししたいと思います。EMBAプログラムでは、出願資格の職務経歴15年以上という規程を厳格に適用し、それを基準にカリキュラムを考えており、その中で、経営の基礎をもう一度学ぶことを重視しています。例えば企業でファイナンス部門に所属していても、ファイナンスの構造、役割、課題といった事柄をもう一度考えていただきたいし、マーケティングが専門であっても、マーケティングの授業を受講免除ということにはしません。将来経営者となれば、全領域の知識を結びつけ総動員して意思決定することが必要です。例えば、新たなマーケティング戦略を実行するとなると、コストの計算や、組織や生産体制の変更、新たに人材を採用する必要があるかなど、市場の見通しを勘案しながら、複雑な経営問題を迅速に分析し判断することが求められます。そのバックボーンを形成するため、EMBAでは、経営の全領域についてケースメソッドで体系的に勉強していただきます。

リーダーシップを涵養する科目としては、将来の経営人材として、経営者が常日頃何を考えているかを考える機会を提供するという目的で、「経営者討論」を設けています。ケースメソッドでは、授業が終われば日常生活や会社の仕事に戻ってしまいます。ところが、経営者は四六時中自分の会社のことを考え続けており、そういう彼らが何を使命と考え、どんな情熱を持っているかは、経営者と直に接する機会がなければなかなか知ることができません。そこで、ほぼ月に1回、経営のトップにいる方々を講師として招聘し、予め講師の生い立ち、キャリア、業界などを調査した上で授業に臨み、講師との質疑応答・議論を活発に行う「経営者討論」科目を用意しました。経営者の考え方、情熱、悩み、志がどこにあるのか、皆さんに改めて考えていただきたいと思います。

フィールド型の科目も、特徴的と言えると思います。その1つは、2年目に開講される「国内フィールド」です。国内の企業を対象とし、企業経営の中に入り込んでマーケティングや生産活動の実情と、経営戦略とのリンクについて調査を行い、EMBAの1年次で学んだ全領域の知識と皆さんのこれまでの経験を生かして、従来のオペレーションを変革し、新たな成長のための提言を社長に報告するというフィールドワーク科目です。

もう1つのフィールド型科目は「海外フィールド」です。「海外フィールド」では実際に海外に赴き、現地で何が起きているか、現地の経営の仕組みの背後にどのような政策や企業努力が存在するかなどを探っていきます。昨年の第1回ではラオスに行き、先月、2015年度の第2回の現地訪問では、インドとオランダに出かけました。また、「グローバル経営」では、KBSが提携関係を結んでいる海外の一流ビジネススクールから、最先端の研究・教育を行っている講師を招聘し、週末の3日間、基本的に英語を使用言語として最新のグローバルな経営知識を学んでもらいます。

「ビジョナリー」では、将来の社会を展望することを試みます。将来の日本社会や皆さんの属する企業や業界が50年後にどうなるか、どうすべきかというテーマで、50年後の社会に向けての提言をまとめていただきます。在学中の2年間をかけて全員が分担して執筆し、最終的には本として出版します。毎年EMBAの学生が「ビジョナリー」科目に取り組み、出版物として社会に向けて発信し、それを読んで感銘を受けた人がKBSのEMBAに出願するというサイクルを実現したいと考えています。

EMBAプログラムでは、広い視野を持って世界経済や日本経済、関係する業界、それに多様な文化の人々に目を向け、長い時間軸を持って考えていただきたいと希望しています。例えば、MBAを取得すれば処遇が上がるという目先のことにとらわれ、学位を取ることが目的化してしまうと、「直ぐに役立つことだけを教えてほしい」ということになりかねません。それではビジネススクールの本来の役割は果たせないと思うのです。2年間の仕事と勉学の両立は大きなチャレンジですが、皆さんの5年後・10年後、所属する会社・業界の20年後・30年後のためのチャレンジだ、という視点を持って勉強していただきたいのです。そうすれば皆さんの学びはより深いものになり実りも豊かになる。そしてEMBAプログラム履修生の学びが付随的に学校のレピュテーションにも繋がっていくと考えています。

私たちはこれからも、EMBA設立の趣旨並びにカリキュラムの特徴をしっかり確認しながら、プログラムを運営していきたいと考えます。学校の運営では、学生の皆さん・教職員が全員で一体となって協力し、学校、そして日本社会を良くしていくために貢献することが大切です。2年間充実した生活を送っていただき、修了後も続く皆さんとKBSの交流のために、今日は大切な出発点です。これからも色々な機会をとらえて皆さんと接していきたいと考えています。実り多い2年間となることを期待しています。

2016年4月2日

慶應義塾大学大学院経営管理研究科

委員長 河野 宏和

_MG_1608.jpg

PAGE TOP