2016.05.26

教員紹介|高橋 大志 教授

この記事はKBSレポートVol.11より教員紹介の内容を掲載しています。

マーケットと計算機科学

企業は、製造・R&Dなど様々な活動に取り組んでいるが、そうした中、近年、人工知能をはじめとした計算機を活用した技術への関心が高まっている。人工知能のアプローチは、これまでも何度かのブームがあり、近年の関心の高まりは3回目のブームに数えられる。近年のアプローチでは、コールセンター業務や車の自動運転など、企業を取りまく様々な活動への応用が期待されている。このようなブームの背景として、ここ数年におけるビッグデータへの関心の高まりと、Deep Learning (深層学習)と呼ばれる新たな技術の進展が挙げられる。Deep Learningは、ニューラルネットワークモデルの一種であり、その分析過程において、情報を圧縮できる点、特徴量を自ら抽出できる点などの機能を有しており、その有用性から、多くの分野において応用が期待されている1。

このようなアプローチに対する期待の高さから、技術の進展が経済・社会に対して与える影響についても、活発に議論が行われている。例えば、「将来的にコンピュータにとって代わられる職業は?」などといった議論は、広く知られたものの一つとして挙げられる。また、経済産業省の研究会においても、それら技術の影響に関し、「特に、人工知能・ビッグデータ等の技術は指数関数的に進化しており、産業構造・就業構造その他経済社会に、想像を超えるスピードと態様で、大きな変革をもたらしつつあることへの対応が必要である」との指摘が行われている2。最近、金融分野において耳にするようになった「フィンテック」とは、このような流れを背景として作られた、金融とIT(情報技術)の融合を表す言葉である3。

ファイナンスに関する研究は、主に実証と理論といったアプローチの研究が相互に影響を与えることにより進展してきた。このような中で、近年の技術の進展がどのような影響を与えていくのかは興味深い。例えば、自然言語処理技術は、これまで数値データを対象とした分析が多かった実証分析において、テキストデータを分析対象に取り組むことに貢献するかもしれない。また、大規模シミュレーション分析技術は、これまでの手法では取り扱いが困難な理論的な課題に対し、有効な分析手段を提供するかもしれない。

情報は、企業活動において重要な役割を果たす。そのような情報と資産価格の関連性は、ファイナンス研究においても主要な関心事の一つである。企業活動に関する情報をタイムリーに提供する媒体の一つに、ヘッドラインニュースが挙げられる。これまで、Deep Learningなども含む自然言語処理技術を通じ、Thomson ReutersやQuickなどにより配信されたニュースと資産価格の関連性について興味深い現象を見出す試みが行われている。更に、大規模シミュレーションを通じ情報の流れがマーケット全体に与える影響についての分析なども行われている4。

新たな技術の進展は、経済・社会および研究などの活動に対して貢献できる可能性がある一方で、その限界も存在する。それら有用性および限界を踏まえながら、有意義な取り組みが行われることが期待される。

(*1)高橋大志,コンピュータサイエンスとファイナンス, 日本経営財務研究学会 ファイナンスキャンプ, 2015.
(*2)http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/kaseguchikara/011_haifu.html
(*3)日本経済新聞 2015年4月1日 http://www.nikkei.com
(*4)高橋大志, 企業活動とマーケット-財務上の意思決定と企業のステークホルダー-, 人工知能学会誌, vol.30, no.4, pp.437-444, 2015.

高橋 大志 (たかはし ひろし)

1994年東京大学工学部卒業。1994年~1997年富士フイルム(株)研究員。1997年~2005年三井信託銀行(株)(当時)シニアリサーチャー。 2002年筑波大学大学院修士課程修了。2004年同大学大学院博士課程修了(博士(経営学)(筑波大学))。2005年~2008年岡山大学准教授。2007年キール大学客員研究員。2008年より慶應義塾大学経営管理研究科准教授。2014年教授。

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