2017.05.02

2017年度入学式(EMBAプログラム)研究科委員長挨拶

皆さん、入学おめでとうございます。我々は2年前にExecutive MBA(EMBA)プログラムを開設し、先日3月28日に第1期生の学位授与式、修了式を行いました。皆さんはその3期生として本日入学されたことになります。

今日、お話ししたいことの第一は、我々がどういう問題意識で、EMBAプログラムを開設したかということです。KBSは、日本で最初にMBAプログラムをスタートした歴史と伝統のあるビジネススクールですが、世界あるいは日本のビジネススクールの状況を冷静に見た時、日本の経済、社会への貢献という意味で、KBSが充分にその役割を果たしているとは言えないと考えるようになりました。今や欧米諸国だけではなく、中国あるいは韓国、そして東南アジアの国々でもエグゼクティブ向けの経営教育は当たり前で、セミナーやExecutive MBAプログラムが多数存在しています。一方、日本企業は年功序列型あるいは長期雇用型の制度の下で、30代中盤から徐々に昇格させつつ、社内で様々な業務を体験させ鍛えていくやり方が一般的です。しかし、ビジネスがグローバル化していく中で、実際に交渉する相手はMBAやPh.D.の教育を受け、経営の理論体系を学んできた海外の人達です。日本の企業内でOJTを受けただけで、対等の交渉を行うスキルが身に付くのかは疑問です。意思決定できずに保留し、本社に持ち帰ってから考えるという姿勢では話になりません。すなわち、経営能力という点で、日本の企業の将来が危ないという危機意識がEMBAを開設した一つの大きな理由です。

EMBAプログラムの設計に当たって、まず応募条件を実務経験15年相当以上と決めました。異業種、異職種で、充分なキャリアを持った人たちが集って議論をすることで、若手が混ざるプログラムとは違った濃密な学び合いの環境が出来上がるということを期待して、15年相当以上のキャリアを出願資格の絶対条件にしました。

それから、もう一つの特徴は土曜日中心の授業です。日本の多くのビジネススクールは夜間に色々な授業を開講しています。KBSのEMBAプログラムも、夜間に専門科目を幾つか取れる機会を設けたり、金土日の3日間で合宿形式の授業を行ったり、1週間海外に滞在し、勉強する授業科目もありますが、基本は土曜日の授業です。土曜日に集中し、朝から晩まで勉強して議論が出来る環境を提供しています。なぜかというと、単に勉強するのではなく、自分の見方や考え方まで変えて欲しい、自分に足りないところを学びながら補っていって欲しいと考えているからです。経営人材を育成する議論型の勉強は、土曜日中心で集中しないと出来ないのです。2年間の最後まで、みっちり毎週土曜日、朝から晩までの議論が繰り返されます。特に1年目は経営能力を体得するために必須な基礎知識、例えば財務、会計、戦略、組織、オペレーションなどの一つ一つを理解し、それらを融合して判断出来るように、知識・スキルを体系化していくことを目指しています。ですからケースメソッドでしっかり勉強する必要があります。それでも不足する部分はサブリーディングで補ってください。これが1年目のカリキュラムです。

次に2年目になると、実践力という意味で、『フィールド』科目(国内)を提供しています。実際の企業に入り込んで対象企業の経営課題を分析し、経営陣に対して提言します。これは、1年目に学んだことを体系的に実践する目的の科目です。

それから、もう一つ、我々が非常に重視している科目が『経営者討論』です。EMBAプログラムは経営人材を育成することが狙いですから、何百人、何千人という社員を率いて方向付けを行い、責任を持ってリードしていくことを学ばねばなりません。そういう人材になるためには、経営者としての考え方、経営理念、使命感が必須です。しかし、それを通常の授業の中で育むのは非常に難しい訳です。『経営者討論』では毎月1回、ビジネスの最前線で活躍されている、業界トップの経営者に講演して頂きます。一方、学生は事前学習をした上で講演を聴講し、一緒に討論を行います。どのような苦労があるのか、どうやって今のような経営者になったのかといったことを、講演や討論の内容から学び取ります。このような討論会を経験することで、経営者としての資質を身に付けて欲しいと考えて企画した科目です。

基礎知識と実践力、そして経営者マインドという3つに加えて、これからの時代にどうしても必要になるのが国際感覚です。EMBAプログラムでは、国際感覚を磨く科目として『グローバル経営』があります。海外の有力ビジネススクールから講師を招き、ケース討論と講義を3日間の合宿形式で行います。この授業は全部英語で、ポイントだけは通訳者が伝えてくれますが、英語を聞き取れて英語で質問出来れば、講師と直接コミュニケーション出来ます。他にも海外へ出かけて行く『海外フィールド』という科目があります。この科目でも基本は英語なので、普段から英語の能力を磨いておくことが必要です。必ずしも文法が正しく流暢である必要はありません。国際感覚とはただ黙って相手の意見を聴いているのではなく、他の人の意見に対して自分の意見を融合させ、ディスカッション、ディベート出来る能力や感覚を意味しており、そうした能力を育む環境に身を置いて欲しいと期待しています。

さらに皆さんに望むことは、長期的な視点です。EMBAプログラムは、次の世代、さらにその次の世代の人達にきちんと経営のバトンタッチをしていく、そういう人材を育てることを狙いとしているので、明日や明後日の事しか考えることが出来ない経営能力では全く不十分です。そこで、2050年までの長いスパンで社会の在り方を議論する、『ビジョナリー』と呼ぶ科目を設けています。この科目で皆さんがディスカッションしてまとめた成果を、修了時に出版物として刊行します。2050年、2060年の社会を想像し、その中で自社に足りないこと、自分の業界が変わらなければいけないこと、そして自分に足りないところを長期的な視点で考えていきます。それを、入学直後の最初の合宿からスタートします。

以上のように、毎回ケースを使って議論をするコア科目、国内・海外フィールド科目、海外から講師を招聘する合宿型授業、専門科目、個人研究と、これだけで土曜日はほぼ埋まってしまいます。よって、かなりタフな勉強が必要です。タフな中で仲間が集まって議論することが楽しく、さらに教員を引き込んで一緒に議論しよう、そのような活発なクラスになってほしいと期待しています。学校に入学したのだから教員が全て教えてくれるという感覚ではなく、教員が持っていることや自分が知らないことを引き出す、議論に巻き込む、皆さん同士で議論したことに教員の違う視点を入れていく、そういう形で皆さんが中心になって授業を運営していくことが望ましいのです。そして、このタフな勉強を助け合うのが、ここに居る異業種異職種の仲間のつながりです。全てを知っている人はいなくても、色々な経験知を持つ人達がお互いに補い合って議論することで、EMBAの3期生が活性化して行きます。2期生は違う授業を受けていますが、同じ時間帯に学内にいますし、MBAプログラムの学生にも面白いメンバーが揃っています。そのような人達と繋がりを持ち、学校に来ることが楽しくなる、というのが私の願いです。

まだEMBAプログラムは3年目ですから、我々も皆さんから意見を頂きながらプログラムを良くしていきたい、そしてKBSのレピュテーションを高めたいと考えています。それは単にKBSの為ではなくて、日本やアジアの為、もっと言うと地球全体に貢献したいと考えているからです。皆さんが修了するまでというだけではなく、もっと長期に亘って貢献できる、そのようなプログラムにしていきたいと考えています。今日がスタートですが、これからの2年間を充実させ、土曜日を有意義に過ごしてください。土曜日に学んだことを翌週に活かす、そして仕事の中での課題を皆で議論する。そのような場を作り、仕事と学びをハイブリットで行う、実りあるEMBAプログラムにしてほしいと希望しています。

2017年4月1日
慶應義塾大学大学院経営管理研究科
研究科委員長 河野 宏和

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