専門科目:経営管理研究科,医学研究科,理工学研究科 
2009年度1学期 Ver.1 2009/04/06

技術戦略の経済学

Economics of Technology Management

講師 姉川知史 anegawa@kbs.keio.ac.jp

 

要約 
経営学系学生と,理学・工学・医療系学生を対象にして,技術・イノベーションに関するマネジメント教育を行う。第1は,技術のマネジメントを検討する。第2は,技術を社会的展望を検討する。第3は, 技術と経営教育を検討する。

I. 講義要綱
以下の3つの課題に答える入門科目を実施する。
1. 技術のマネジメント
技術・イノベーションのマネジメントはどうあるべきか。
そのマネジメント手法の内容は何か。その限界は何か。
経営における技術・イノベーションの役割はいかなるものか。
2. 技術の社会的展望
技術・イノベーションは経済,社会,企業,政治とどう関係するか。
日本経済の過去15年の停滞と,技術・イノベーションはどのように関係するであろうか。
グローバリゼーションと技術・イノベーションの関係はいかなるものか。
経済成長,環境,安全,食料,エネルギー,医療等における国際的課題はいかなるものか。
3. 技術と経営教育
技術・イノベーションのマネジメント教育はどうあるべきか。
日本の技術者に対するマネジメント教育の課題は何か。
技術・イノベーションとマネジメントとを統合する教育のあり方はいかにあるべきか。

II. 対象学生
本科目は,経営学あるいは理学・工学・医学系の修士課程レベルの学生で,将来,企業,政府機関,大学,非営利団体等で「技術」を重視したマネジメントに携わる者を対象とする。マネジメント科目あるいは経済学科目を未履修の学生については導入教育を行う。
経営管理研究科学生については,マネジメントにおける基礎科目と入門経済学を履修ずもの学生を対象として,技術・イノベーションのマネジメント能力の獲得を目的とする中級科目として位置づける。
背景の異なる学生による討議中心の学習によって,異なる専門領域の融合と,専門家相互の学習を目的とする。

III.科目の考え方
「技術」や「イノベーション」とは,研究開発の成果を個別主体が財・サービスの設計,生産,販売を介して収益として実現する方法の体系として想定する。この個別主体としては主に企業を想定するが,それ以外にも個人,非営利法人,大学,行政団体等を含む。
授業では第1に,「ミクロ的側面」として,個別主体の技術・イノベーションのマネジメントを強調する。財務,会計,マーケティング,組織管理,人的資源管理,法務・知的財産管理,研究開発管理,製品開発・生産,製品企画といった領域から代表的なマネジメント手法を選択し,横断的に紹介する。そこでは個別手法の詳細ではなく,それらを全体として統合するマネジメントのあり方を重視する。
第2に,技術が経済,社会,政治等とどう関係するかという「マクロ的展望」を検討する。そこでは経済成長,人口動態,需要,資源,技術進歩,技術政策,市場・企業システム,社会資本等の動向を展望し,経済学を利用した分析枠組みを提供する。ここでは個別主体の行動と,市場競争,政策,マクロ経済の相互関係を重視する。
第3に,経営教育における技術と,技術者の経営教育のあり方を批判的に検討する。それによって,学生の将来のキャリアの展開を容易にし,生涯教育のオリエンテーションとする。 

IV. 授業方法 
本科目は教育手法としてケース・メソッド,講義メソッド,プロジェクトの3つを採用する。
第1は,企業の実際の事例を描写した「事例教材」を用いて,参加者全体の討議で分析する「ケース・メソッド」である。
第2は,「講義メソッド」であり,個別の題材の背景,問題,分析手法を検討する。
第3は,参加者による,現実の課題を対象とする「プロジェクト」である。ここでは技術とイノベーションのマネジメントに関する題材を選択して,参加者のチーム主導によるプロジェクトを実施し,リポートを作成する。

V. 説明
言語 主として日本語を使用するが,外国人学生参加が多い場合には,必要に応じて英語も併用した教育を適時行う。
評価 授業参加35%,宿題・レポート30%, グループ・プロジェクト・レポート35%
文献 授業詳細と文献・資料は授業内でまた,HPで指示する。
日程 4月22日以降の水曜日,金曜日の16:30−18:00 (原則として) 
場所 慶應義塾大学大学院経営管理研究科,223-8526 横浜市港北区日吉4-1-1(協生館)4F
講師 姉川知史(慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授)ならびに内外の講師・スピーカー
連絡先 anegawa@kbs.keio.ac.jp 
授業用HP http://www.kbs.keio.ac.jp/anegawalab/

履修申請について 
経営管理研究科学生については,4月15日教務
各研究科についてはそれぞれの日程と手続きどおり
他研究科学生で,科目履修に興味があるが,内容が判断できないと考える者は,いったん履修申請をしたうえで最初の授業を聴講し,3回目に継続,中止を判断することを勧める。

他科目との関連
 理学・工学・医学系の修士課程学生には経営管理研究科科目として,次の関連科目があり,履修を推薦する。
−『経済理論I』ミクロ経済理論,1学期,経済学の基礎となり,自然科学の学生にはなじみ易い。
−『経済理論II』マクロ経済理論,2学期,経済のマクロ的動向を対象とし,自然科学の学生に欠けがちな重要科目である。 
−『市場競争と戦略』経済理論を基礎とした企業の経済行動,市場分析,2学期,企業と市場という観点を中心に議論する。なお,理工学研究科学生を対象とする科目説明と履修申請は2学期科目についても,4月6日に実施する。『市場競争と戦略』の履修については,4月時点で科目履修登録を行い, 7月時点で経営管理研究科からe-mailで再度,履修確認を行う。

取り上げる題材の例
a. 技術予測と動向
技術の哲学・社会学/技術革新の歴史/技術予測の意義と限界,
技術革新の制度的・文化的背景,科学技術の文化,技術予測
b. 経済学における技術
ミクロ経済学における技術:収穫逓減,規模の経済,競争と市場,企業組織と市場
寡占と産業組織,エージェンシー,情報の非対称性,経済的動機付け
マクロ経済学における技術:経済成長,経済発展,生産性,金融
c. 企業マネジメントにおける技術
コーポレート・ガバナンス,技術選択,技術革新過程,市場の発見と創造,人的資源マネジメント,
組織マネジメント,製品設計とモジュール化,サービス・マネジメント,国際分業とアウトソーシング,ポートフォリオ・プロジェクト・マネジメント
オペレーションズ・マネジメント,財務マネジメント,ITマネジメント,知的財産マネジメント,
リスク・マネジメント,デザインと技術
d. 公共政策と技術マネジメント
競争政策,知的財産権,価格規制,社会的規制,倫理と法,科学政策,技術政策,産業政策,中小企業政策,教育政策,企業法制,環境政策,金融政策, 資金調達と企業形態
e. 社会資本マネジメントと技術(産業基盤,社会基盤)
企業間関係,中小企業,ベンチャー育成,地域集積,ナショナル・イノベーション・システム,
教育機関と産学連携,国際競争と国際分業

教材の例
資料「Yahoo.domの買収と企業価値」
事例「岐路に立つヌーコア」
事例「東芝と日本のエレクトロニクス産業」
資料「日本の医薬品産業」
事例「紫色の錠剤“The Purple Pill: Astra Zeneca and Prilosec」
事例「Pfizer: 世界市場における知的財産権の保護」
事例「知的財産権紛争−アメリカ合衆国における特許紛争」
事例「RIAA and MyMP3.com」
事例「運動靴の国際調達“Nike and International Sourcing”」
事例「民間航空機の衝突進路:ボーイング−エアバス−マクダネル・ダグラス」1991年
事例「3M Optical Systems」3Mの製品企画
事例「岐路に立つNucor」Nucorの新技術採用の成否
資料「トヨタ」トヨタの企業戦略と2008年の景気停滞
事例「東芝」資金調達とポートフォリオ・マネジメント
事例「Suzlon」風力発電の世界企業の成長過程
事例「Ranbaxy」ジェネリック医薬品企業をめぐるM&A
資料「Yellow Sea」黄海の環境汚染と経済学
資料「医療におけるエビデンス・マネジメント」
事例「経済構造改革と日本企業」
事例「グローバリゼーションの展望−2008年の経済危機−」
事例「コーポレート・ガバナンス2003」
事例「日本の金融政策2005」
資料「Finance and Corporate Organization for Innovation」
資料「Science Policy and Eco-system」

補足説明 授業詳細については授業HPhttp://www.kbs.keio.ac.jp/anegawalab/ のこと。HP Teaching MaterialsID“*****”, PW “********”

メール網は“Keio_KBS_MED_ST_2009_Econ_Tech_Mng”

理工学研究科学生はキャンパスが離れているので連絡網として,授業HPならびにメール網を使用する。学生には425日に連絡網加入打診のメールが届くので,加入する。