企業ブランドの形成と管理に関する一考察

―N社の事例を中心に―


 近年ブランドは、企業サイドからは非価格競争上の競争優位の源泉としての観点などから、また消費者サイドからは意味としてのブランドの役割が増大していることなどから、研究が進み、重視されてきている。

 本研究では、企業ブランドの形成過程とその管理についてを研究主題とし、その企業の歴史上の「エピソード」との関係に焦点を当てて分析した。

 具体的には、「エピソード」を数多く有しているが現在は普及ブランドとなっている「株式会社 中村屋」を中心に、同業で高級イメージを保っている「株式会社 虎屋」を比較対象とした事例研究を行った。

 本事例における発見物は、以下の3点である。

 まず第一に、エピソードがブランド価値、すなわちブランド・アイデンティティの構成要素を構築し、ブランド形成に大きく関与した。

 第二に、ブランドアイデンティティを常に中核に持つマーケティングを行うことによって、そのブランド価値は維持される。ブランドの歴史やエピソードは、ブランド・アイデンティティを裏付ける存在である。

 最後に、エピソードはブランド価値を内包し、端的に表現するものであり、しかもストーリー性があり理解・記憶しやすい。エピソードを用いることで消費者にはブランド価値をアピールしやすく、また企業内においてもそのブランド・アイデンティティを再認識させやすい。そのため、エピソードはブランド戦略上有効な手段のひとつとしてさらに活用されるべきものである。