トイレタリー業界におけるニッチ戦略立案
−市場地位の低い企業が行うべき戦略−
M23 柴田昌彦
市場の成長率が低く、上位寡占度が高いトイレタリー業界において市場地位が低い企業はどのような戦略を立案していけばよいのであろうか。トイレタリー業界においては、資源依存論的立場から小売業者に対する資源依存度が高いので、小売業者へのチャネルパワーのシフトが起きている。その中で、製造業者は、製品レベルでの価値提案、カテゴリーレベルでの価値提案、業務レベルでの価値提案を行っていかなければならない。市場地位が低い企業は、まず、製品レベルでの価値を訴求していかなければならない。製品レベルでの価値を訴求していくためには、参入する市場を決定し、ターゲットを明確にしなければならない。
そこで、参入する市場を決定するために、購買関与度、ブランドスイッチの起こりやすさを今回対象とする歯ブラシ、歯磨き粉、シャンプーの3つの市場で検証した。他の条件が一定の場合、購買関与度が高く、ブランドスイッチが起こりやすい市場へ参入するべきである。その理由は、購買関与度が高い市場のほうが製品レベルでの価値提案を行いやすく、市場成長率が低い業界内ではブランドスイッチが起こりにくい市場では新たな製品レベルでの価値提案を行うことが困難であるからである。分析の結果、シャンプー市場が最も購買関与度が高く、ブランドスイッチが起こりやすいため、市場地位が低い企業にも参入する機会があるとした。実際に上位寡占度もシャンプー市場が検証した3つの市場で最も低い。
次にターゲットを決定するために、行為の目的から消費者を分類した。その結果、歯ブラシ、歯磨き粉といったオーラルケアの行為の目的では能動的であるか、惰性的であるかが、シャンプーでは、「きれいに見せたい」という外向けの意向の強さである外交的か内向的かが購買行動に大きな影響を与えていた。市場地位が低い企業は、高関与層へターゲットを絞り込み、製品差別化を前提にしたマーケティング戦略を立案していくことが望まれる。その理由は、購買関与度の高い消費者は積極的な情報探索を行うので、製品レベルでの価値提案を行いやすいからである。
最後に各ブランドの戦略を概観した。この分析結果から、成功しているブランドには、歯を磨く、髪を洗うという行為の目的から派生した機能を特化し、明確に消費者に伝えており、さらに、その機能が他の目的機能をも兼ねるとう共通性が認められた。
このことから、市場地位が低い企業は、特定の機能に特化はするものの顧客層や機能を絞り込みすぎることなく、高関与層へターゲティングをし、製品差別化を前提にしたマーケティング戦略を立案していくことが望ましいと結論付けた。