社会的に未確立あるいはネガティブイメージの
医療用医薬品のマーケティング戦略
M23 松原夕紀
医学の進歩に伴い、従来ならばStigmaとして「治らない」と思われていた病気も、薬などの治療によって治る、あるいは症状が改善するようになった。しかしながら、患者あるいは一般消費者の中には、心身の痛みを感じていたり、実は何かの症状に困っていながらも、なかなか医療機関へ行こうとしないという現象が頻繁に見られる。その原因は何なのかを探るため、実際の患者行動を調査することによって、患者の「医師に相談する」という行動を阻害している要因をアプローチする。また、実際に医師に相談している患者は、いったい何がその行動の後押しをしたかをも探り、患者の医療行動のに対する選択権の幅を広げたいというのが本論文の趣旨である。 これに伴い、企業として患者あるいは医師、それをとりまく社会環境といったものにどのように働きかけていけばよいかについて提言を行う。
本論文の仮説は下記の3点である。
@患者が「医療機関に行く」という行動を起こすまでに、外的要因・内的要因によるバリア(障壁)が存在する。
A患者が何らかの行動を起こすまでに、それを後押しするような促進因子も存在する。
その1つは、患者にとっての「重要な他者」であり、もう1つは「情報」である。
「重要な他者」には、患者の行動に影響を及ぼす相手、患者がその他者の意見を参考にする相手、そして患者が励まされる相手 の3種が存在する。
B患者と、医師をはじめとする他のプレーヤーとの間には「認識の相違」が存在する。
これにより導き出される最終的な仮説は「バリアを除去し、重要な他者をも含めた患者への支援、それらのツールとしての情報があってこそ、患者の自由意志による選択・決定権ができる」 というものである。
これを検証するため、患者数の少ないために社会的認知の低い、難病であるパーキンソン病、社会的にその本当の辛さが認知されていない偏頭痛、社会的にネガティブなイメージを持たれているうつ病、尿失禁の4疾患について、実際の患者にアンケート調査を行った。その結果、仮説は支持され、疾患によってその内容は異なるものの、4疾患すべてにおいてバリアの存在が確認された。また、「重要な他者」の存在も確認され、患者の行動に影響を及ぼす相手としては、家族や医師があげられ、意見を参考にする相手としては同病の人と医師であり、励まされる相手は家族と医師をあげる傾向が強かった。なお、疾患によっては、これに薬剤師やカウンセラー、マスコミなどが「重要な他者」と成り得る存在として加わっている。
「情報」については、単独で存在するよりも、バリアを低める要因として、あるいは重要な他者と絡めた介在としての果たす役割が大きい。患者の病気に対するイメージが、誰かに相談後、あるいは情報収集後、そして医師への相談後とポジティブに変化していることから、患者が医師に相談することは評価できることであり、そのために企業としては、正確な情報を的確な相手に伝えること、社会のイメージを変える努力をすること、薬剤師と効果的な連携をとること、そして第三者機関によるチェックと情報開示により、医療の質を高める努力をすべきだと考える。