加工食品におけるブランド想起とイメージ連関構造
M24 安田 聡
1990年代から盛り上がりを見せたブランドに対する様々な議論は、わが国においても研究者のみならず、実務家にとってもその重要性は増しマーケティング上のみならず経営戦略上においても欠かせない要素となっている。その原因として、競争優位性の源泉の変化(恩蔵1995)や、情報テクノロジーによる競争力の平準化(田中2001)、消費社会の変化、流通PBの台頭や業態の変化(池尾1997)など様々な側面が取上げられている。このことはブランドが関わる側面もそれだけ多岐に渡っていることを示していよう。加工食品メーカーにおいてもブランド意識のへの高まりは例外でなく、現場のマーケターへの教育から経営層まで巻き込んだプロジェクトまで、広範囲に渡った課題として捉えられている。加工食品メーカーはその財の特性上、ブランドを安全、信頼の旗印としたコーポレートブランド戦略を採用し、店頭配荷・特売に注力するプッシュ型マーケティングを主としてきた。しかし、流通のパワー増大や販促費の効率悪化などの環境変化によって、ブランド資産の活用を迫られているのである。
このように重要性の高まるブランド論であるが、議論レベルも経営視点からマーケティング政策視点まで、ブランド価値定義から評価方法までその範囲は幅広い。その為にどこの視点から考えて、どう評価してブランドを取り扱っていくべきか、実務的なレベルにおいて未だ曖昧模糊とした感があることは否めない。本研究は、消費者の購買過程にそってブランドの役割を整理し、相対的に低関与な財である加工食品にとって重要となるブランド想起と、ブランド・エクイティの一要素であるブランド・イメージとの関係に着目した。今まで知覚としてのブランド・イメージは、その下位プロセスである態度形成での関係で議論されることが多かった。しかし、低関与で日常的に簡略化された意思決定を行なっていると想定される加工食品の購買過程においては、逆に上位過程であるブランド想起との関係に注目する必要がある。企業は、広告の決定から他カテゴリーへの拡張戦略の決定、ブランド階層性の決定など、ブランド支援の為に様々な意思決定を行い様々な影響を与えている。これらの意思決定が、特定カテゴリーの購買に与えている影響を解明し、実務に有用な知見を導き出すことが本研究の趣旨である。
本研究においては、消費者が持つイメージ構造を記憶ネットワーク構造として捉え、実証研究によりブランド想起に有意な「有効ネットワーク」を導出し分析を試みた。分析結果から、ブランド想起への有効ネットワークは、カテゴリーとブランドとのダイレクトなリンケージではなく、間に他の要素が介在するインダイレクトなリンケージであること、想起のレベルによって「有効ネットワーク」の構造は異なることが明らかにされた。これらの事実から、カテゴリーとブランド間だけの適合性に着目するのでなく、間に介在する他の要素も含めたネットワークとして捉えることの必要性、自社ブランドの想起レベルによって異なる戦略をとる必要性、更にはコーポレートブランド戦略の限界についての示唆を行なった。