新製品普及モデルによる需要予測とパラメーターの推定
M24 木村 浩
消費社会が成熟化し消費者の嗜好も多様化した現在、企業が維持発展を遂げていくためには新製品の開発が非常に大きな意味を持つようになってきた。特に耐久消費財の購買における日本の消費市場では、その成長過程で「未熟だが関心の高い(購買関与度が高く、製品判断力が低い)消費者が、一般的・長期的傾向として次第に購買関与度が低く、製品判断力の高い消費者に成長してきた」(池尾1999)ことによって、今後、消費者の関心を引くためには、彼らの購買関与度が高く、製品判断力が低い製品カテゴリー(新製品)を企業が作り出し、普及させていくことが必要になってきている。
この様な理由から、これまで新製品が市場で消費者にどのように受け入れられ、普及していくかということについては様々な形で検討されてきた。1969年のBassモデル登場によって、新製品普及モデルは大きな進展を遂げてきたが、その利用については、多くの場合、アカデミックな領域でのモデルの開発と既に発売された製品を用いた適合性の確認という目的に集約される。また、これらのモデルの集計水準は、市場全体であり、多様化した消費者個別の新製品採用意思決定の集合体としての記述という意味では、適合性に問題が生じてきている。
本研究では、現在の消費社会の変化を考慮し、消費者個別の集計水準における意思決定モデルの提示を目的とする。消費者の主観的な判断による新製品カテゴリーを「新コンセプト・新製品」カテゴリーと「既存製品改良・新製品」カテゴリーに分割し、それぞれのカテゴリーで、これまで従来のBassモデルではブラックボックス化されていた知名‐理解‐採用と続く消費者の行動を細分化した、「知名モデル」と「修正Bassモデル」を適用した。この結果、現在の消費社会に対する新製品の需要予測の適合性を向上し、企業が新製品発売に際して意思決定のために利用可能なモデルを構築した。ここで用いた概念は「新コンセプト・新製品」カテゴリーでは、知名>>製品理解であることを前提に、知名モデルで、消費者の新製品知名と理解の2段階の購買過程を達成する確率を表すものである。この際、消費者のうち知名者は、既購入者から情報を得ることで、当該新製品を理解する。一方、修正Bassモデルは、購買意図を形成し、実際に購買行動に至る確率を現すモデルとなる。これに対して、「既存製品改良・新製品」カテゴリーでは、知名≒理解との定義から、知名モデルが、消費者が新製品の名前を知り、製品属性を理解する確率(知名と理解はほぼ同時に達成する)を表し、修正Bassモデルは、消費者が購買意図を形成し購買行動をとる確率を表すと考えた。
更にこれらモデルのパラメーター推定のために、過去の普及研究の結果を分析し、企業が新製品を市場投入する際に設定するマーケティング変数ともいえる初期価格、販売価格トレンド、生産価格トレンド等から定量的にパラメーターを類推可能な方法を導いた。この結果、モデルの構築と併せて、企業が実際に利用可能なモデルとなったと考えられる。
実際に、これらのモデルを既に発売、普及した製品の一例である携帯電話に適用して、モデルの適合性を確認するとともに、今後の普及が見込まれる新製品であるETC(Electronic Toll Collection System)とPDP(Plasma Display Panel)テレビに適用して、普及促進のための企業の戦略を考察した。