インターネット上の消費者間相互行為とブランド・コミットメント


M24 森加代子

 


 市場の成熟化を迎えた日本において、ブランドを通じた「差別化による優位性の確立と価格競争からの脱却」と「顧客と長期的交換関係の構築」は、企業にとっての重要なテーマとなっている。同時にインターネットの発達は、これまでの顧客と企業の関係を大きく変容させつつある。消費者は、インターネットの利用を通じて企業との情報の非対称性を緩和することで「賢く」なり、また、消費者自らの情報発信能力を手に入れることで企業と渡り合える土俵を取得することで「強く」なりつつある。そして、インターネットは、賢く強い消費者一人一人を結びつけ「相互に影響しあう消費者」へと変容させる。そのため、ブランド構築においても、企業と顧客の1対1の関係だけではなく顧客間関係の重要性が高まっている。
 本研究では、このような問題意識のもと、顧客間、あるいは企業を含めた相互交流の「場」として「ブランド・コミュニティ」という概念に注目し、インターネット上に存在する特定ブランドに関するコミュニティの中でどのような消費者間相互行為が行われ、それがブランド構築の重要な要素であるブランド・コミットメントの向上にどのような影響を与えているのかという課題に取り組んでいる。

 具体的には、デジタルカメラのネット・コミュニティを研究対象に、消費者のブランド・コミットメントの向上を促すコミュニティ特性とコミットメント向上に寄与する情報を特定し定量的に実証している。その結果、具体的には以下の事実が明らかになった。

   (1)ネット・コミュニティの消費者間相互行為の中で、消費者は、製品満足、ブランド・コミットメント、他のユーザーへの親近感を向上させる。
   (2)ブランド・コミュニティ(特定製品ブランドに関するコミュニティ)に限らず、ネット・コミュニティの消費者間相互行為の中で製品理解の向上や
      ユーザー同志のサポートへの安心感によってユーザーのブランドへのコミットメントは向上する。
   (3)ブランド・コミュニティは、他の複数取り扱うコミュニティと比べ、ブランド・コミットメントの向上の程度が大きい。
   (4)ブランド・コミュニティにおいてユーザーのブランド・コミットメントが向上しやすいのは、コミュニティの同質性に起因し、ユーザーの購買や
      製品に関する考え方を肯定するような文脈において、支持的な情報に遭遇しやすい可能性が高いためと考えられる。
      ユーザーは、支持的情報を取得することで、自分自身のブランドに対する確信や無意識の認知的不協和を低減させていると考えられる。

(1)〜(4)を踏まえ、インターネット上の消費者間相互行為とブランド・コミットメントの関係について結論づけると、『潜在的にブランド・コミットメントを有する消費者は、ブランドへの理解、サポートへの安心感を高めることにより、ブランド・コミットメントが向上する。ブランド・コミュニティは、一定のブランドへの好意を有するメンバーで構成されておりコミュニティユーザーへ支持的情報を提供しやすい環境にあるため、ブランド・コミュニティにおける消費者間の相互行為は、ブランドへの理解を促進させ、ブランド・コミットメントをより向上させる。つまり、ブランド・コミュニティは、ブランド・コミットメントを向上させる媒介の役割を果している』と考えられる。

 また、ブランド・コミュニティの特性として次のことも発見された。
   (5)一定のブランドへのコミットメントを有するブランド・コミュニティにおいて、ネガティブな情報が書き込まれても、ブランド・コミュニティ・ユーザーのブランド・コミットメントに負の影響を与える可能性は低い。
   (6)ブランド・コミュニティにおいては、ブランド選好な支持的情報を出す人(仕組み)が必要であり、製品関与、ブランド・コミットメントとともに、「他のユーザーの役に立ちたいという意識の強い人」=コミュニティ関与を持ち合わせている人の存在が不可欠である。

 最後に本研究の限界と今後の研究課題について述べている。