介護用品における購買意志決定プロセスについての考察
M24 田窪太一郎
日本は、医療技術や医療保険制度の充実、経済的な発展に伴って栄養事情などが改善されたことなどにより、現在、世界一の長寿国となっている。そして、寿命が延びた事と時を同じくして少子化の波が押し寄せたことによって、近い将来、世界でまだ誰も体験したことのない急激な高齢化社会が到来することが確実視されている。
これに対応するために、2000年4月に、介護保険制度がスタートした。これを契機に、多種多様な企業が、今後かなりの長期間にわたって成長するであろうと見られている介護市場に参入してきており、さまざまな業種への新規参入がはかられている。しかし、その実態を見てみると、市場の大きさや成長性などに惹かれてとりあえず参入したものの、当初の目論見どおりうまくいかない企業が多数存在しており、介護市場の難しさが改めて浮き彫りとなっている。そのなかでも特に小売市場は赤字の企業も多く存在しており、厳しい経営を強いられているところが多い。
そこで、本研究では介護用品小売りに焦点をあてて、その購買プロセスを明らかにすることによって、現段階ではまだ十分に顧客のニーズにあった販売方法を確立できていないと思われる介護用品小売店に対して、より顧客にフィットするマーケティング戦略を提言することを目的に研究を行った。
介護用品の購買プロセスを明らかにするための実証方法として、本研究では実際に介護用品を販売している介護ショップ、介護用品メーカー、在宅介護を行っている人へのインタビューをおこない、介護保険のうちレンタル・購入制度が利用できる商品の場合、ケアマネージャーが商品の種類を選定し、ケアマネージャーが推薦する介護ショップの店員が実際に消費者宅を訪れて、持参した商品の中から被介護者にフィットする製品を選択するというプロセスが明らかになった。また、大人用紙おむつの購買プロセスについてのアンケートを行い、分析することで、症状や介護する側の条件によって求められる小売業の形態を明らかにした。結論として、介護保険制度の効かない商品に関して、介護を行うことがさほど困難ではない人々は主に他業態の小売店で購買を行っており、これに対して介護ショップは著しい競争劣位にあり、また介護保険制度の使える商品群の購買プロセスから展示販売は無駄なコストでしかない為、小売店を閉鎖してコストを抑えた営業所への転換を提言している。また、研究の限界として、今後介護ショップが目指すべき店舗形態を提言するにとどめ、ケアマネージャーの確保の方策などその具体的な方法にはふれていない。