受診促進のためのマーケティング戦略
−痴呆疾患啓発活動による可能性を求めて−


M26 外処圭介

 


 痴呆症は高齢化社会の進行と共に年々増加し、2005年度の169万人から、20年後には約327万人に達すると予測されている。現在、65歳以上では13人に1人が痴呆症であり、85歳以上では4人に1人が痴呆症であるというデーターもあり、もはや他人事では済ませられない状況にある。また、東京都福祉局の調査では「家族が、物忘れが多いと気づいてから医療機関に相談するまでに、約7割の家族が2年以上かかっている」というように、家族が初期症状に気が付いてから受診行動を起こすまでには非常に長い時間がかかっている。これは社会全体に痴呆症に対する正しい理解と認識が低く、偏見や誤解が存在しているからであろう。そのために、早期の治療・ケアに対する対応が遅れており、患者や家族間の負担はますます大きいものとなってしまっている。このように社会のシステムとして、痴呆症に対する早期発見・診断・治療に対する整備は遅れており、高齢化社会における痴呆症の急激な増加は大きな問題である。

本論文では、痴呆症の患者および家族の痴呆症に対する知識・態度・行動を調査・分析し、痴呆症の初期段階における受診行動モデルを構築した。そして、一般生活者718名に対しアンケート調査を行い、もの忘れと痴呆症に対する個人の関わり方の構成要素である痴呆症関与度・痴呆症罹患性・痴呆症重大性・受診関与度・初期症状判断力の5つの因子によって構築した受診行動モデルの仮説検証を行った。また、受診意向に伴う4つのグループ間(早期に受診を促す、しばらく様子を見る、誰かに相談する、何もしない)を比較することで、「なぜ痴呆症の患者の受診行動に至るまでの期間は長いのだろうか」、「家族が最初の症状に気づいてから医療機関へ受診に至るまでの態度や行動はどのように変容していくのだろうか」、「どうすれば一般生活者の中から潜在患者を掘り起こし、医療機関へ受診行動を起こしてもらえるように出来るのか」、「患者や家族はどのように医療情報を得て何に影響されて行動を起こすのか」など、医療機関に行くまでの患者と家族の心の移り変わりと行動面に起きている事との関係性を導き出した。

そして、これらの結果を元に、現在、製薬企業が実施している痴呆疾患啓発広告を中心に痴呆症の疾患啓発活動における受診促進のためのマーケティング戦略を提言し、同時に、製薬企業の本業による社会貢献活動(CSR)についても考察を行う。