市場ダイナミズムと競争優位の分析
−デジタルカメラ市場における市場進展と戦略グループ−
M26 宮本美佐子
今日、競争環境が変化したために、業界や企業を分析単位としたこれまでの競争戦略論のみでは説明できないような事象が顕著になりつつある。競争戦略論の理論研究においては、業界を基本的な分析単位として、企業間の業績格差の要因を該当する業界構造とその内部における企業のポジショニングに求める「ポジショニング・アプローチ」と、企業を分析単位として業績格差を企業が持っている資源から探ろうとする「リソース・ベースト・ビュー」の二つの主要なアプローチが存在する。これらにより企業間競争のメカニズムや競争優位の源泉についての分析が行われてきたが、これらは分析の切り口が限定されており、ある時点の短期的な時間軸で区切った分析手法と言えるであろう。しかし、今日の急速な技術サイクルや製品ライフサイクルの進展により、限定された切り口や企業の持っている資源の有効性を単なる短期的な視点だけで判断するのではなく、市場の進展にも適合させ、複合的且つ長期的に考えていく必要があるのではないだろうか。
本論文では、企業の持つ経営資源を基に戦略グループを構成し、サプライサイドの視点からの分析を行う。更に、時間の流れと共に進化する消費者の知覚・選好といったディマンドサイドの分析を行うことにより、既存の競争戦略論にない市場のダイナミズムも含めた議論を行う。これにより、経路依存的な経営資源の競争優位性が、環境変化に対してどのような対応をすることにより持続可能となるのか、何が優位性を低下させていくのか、といった企業戦略を議論するための新たな軸を創出することを目的としている。
上記の分析を行うにあたり、製品モデルチェンジの早いデジタルカメラ市場を例に取り上げる。デジタルカメラは1995年にカシオ計算機が販売した低位機種「QV−10」により、急速に一般へ普及していった製品である。半導体技術、光学技術、精密機器技術を持つ異業種のメーカーが続々と参入し現在も混戦が繰り広げられている。又、消費者の知識や経験が高まり、購買意思決定プロセスも多様化している。このような市場進展を含め、企業の持つ経営資源と他社動向の側面から複合的な視点で議論を展開したい。