ECビジネスにおけるサイトロイヤルティ醸成と成長戦略
M27 河野典子
2000年にネットベンチャーブームの終焉と呼ばれる時期を経てから5年、インターネットというツールは確実に消費市場に浸透し、ネット情報を積極的に活用する消費者が新たな商品の売れ筋を作る時代になった。またこれに対して企業は、テレビを中心とする受動的メディアを活用した従来マーケティングに限界を感じ、最適な手法を探索し始めている。消費環境、ひいては企業のマーケティング環境がこのように大きく変化する中、ECサイトはその波の中心的存在として試行錯誤を続けている。従来多用されてきたテレビなどの電波マス媒体とは異なり、まさに顧客の能動的行動によってのみアクセスが行われる媒体であるため、主にはプルマーケティングが展開される環境にあることから、今までECサイトの最大の課題は「集客」であり、そのための「認知獲得」に各社しのぎを削っていた。しかし一方で、“第2世代”といわれる新規参入組のネット関連企業が次々に上場し台頭をみせており、今後「集客」や「認知獲得」だけでは競争に勝って生き残っていくことはできないであろう。成長期に差し掛かるネットショッピングビジネスにおいて、その延長線上には「ロイヤルティ醸成」という本格的な市場の課題が大きく掲げられるはずであり、ネットを介したマーケティングアプローチを企業が確立していく上で、最も効率的な顧客を獲得し得るこのステージのルールを知る意義は大きい。
本論文では、ECサイト運営者が、顧客に対してどのようにサイトロイヤルティを醸成すべきか、というテーマでサイトロイヤルティ醸成の構造を明らかにしながら、ロイヤルティ醸成を切り口としたECサイトの成長戦略を提示することを目的としている。顧客意識や行動パターンの把握を出発点にすることなくしてサイトロイヤルティを戦略的に醸成することは不可能であると考えるため、消費者調査を実施し、その行動と意識の事実を把握した。
その結果、ロイヤルティサイトを選択する際に消費者が検討する7つの要素、またロイヤルティ醸成に実際影響を与える3つの要素を発見した。また、より具体的なロイヤルティ理由の影響を知るために、消費者特性を媒介変数として因子の影響力の変化を把握し、前述の影響要素以外にも、消費者特性、特に年間ネットショッピング頻度の違いに属して特徴的な影響要素があることを明らかにした。
以上を踏まえた上、筆者が仮説で設定した2軸によるロイヤルティサイト分類を検証した。この際仮説として設定したのはサイト情報に対する“行動的成分”として「購買関与度」、また“認知的成分”として「自己表現度」の2軸である。この2軸により4つのロイヤルティ醸成タイプを得、各々の特徴的ロイヤルティ理由や消費者像を把握することで、分類別ロイヤルティ醸成構造を明らかにした。
これら消費者視点にたったロイヤルティ醸成構造を把握した上で、次にロイヤルティ醸成タイプ別に、企業の対応を探るべく事例研究を行った。事例研究にあたっては、1)企業概要とサイト業績2)サイトの小売としての機能を把握するためのバリューチェーン3)消費者調査の結果期待されているロイヤルティ施策についてどのような対応をおこなっているか4)収益源やその増強はどのような仕組みになっているか。こうした4点について整理・分析を行い、成長につながるロイヤルティ施策の鍵を明らかにした。
以上の結果を踏まえて、本論文の最後に、サイトロイヤルティを醸成し成長へと導くにあたって、消費者の価値観を視野に入れていくことの意義や戦略ターゲットへの対応を、またロイヤルティ施策を実施にうつす際の収益構造上の一貫性の重要さなどについて結論と提言を述べている。