一般医薬品市場の分析
−ロングライフ製品の消費者行動研究−

 

M27 湧永裕子

 


 社会の高齢化がすすみ日本国内における消費者の「健康に関する消費」の総額は増加している。だが、一般用医薬品(OTC)市場は縮小傾向にある。なぜOTCの消費額は伸びないのか。
 OTC市場を細かく見ていくと興味深い事実がわかる。OTC市場は15分類65効能のフラグメント市場にわけられるが、市場はプロダクト・ライフ・サイクル(PLC)の長いロングライフ製品に占有されている。また各小市場における特定の製品ブランドの上位集中度も高い。市場がロングライフ製品に占有されていることから、消費者は新製品が上市されてもブランドスイッチせず、同じ製品ブランドを買い続けていることがわかる。市場が上位集中型であることから、多くの消費者は、高シェアの製品ブランドを選び続けていることがわかる。消費者はなぜPLCの長い製品ブランドを買い続けるのか。

 OTC市場分析の前提として、効能別市場を「即効性」「持続性」に大別した。
 即効性: 熱、痛み、痒み等の症状がおきたときに対処療法のために服用するOTC。
      感冒関連薬、外皮用薬、胃腸薬、消化器官用薬、泌尿器官用薬、精神神経薬他。
 持続性: 体力回復、生活習慣病予防等のために服用されるOTC。
         体質改善等の目的により、継続的な服用が求められる。
         ドリンク剤、ビタミン剤、保健薬、眼科用薬、循環器・血液用薬、漢方薬他。

メーカーを大手・中堅・中小で分類すると、「即効性」「持続性」の製品ブランドの保有数が異なることがわかる。大手は「即効性」「持続性」両方の製品ラインアップをもち、PLCの長短は混在している。中堅は「即効性」のラインアップが多く、PLCは比較的短い。中小は「即効性」の1メーカー1ブランドが多く、PLCは比較的長い。「持続性」製品ブランドは大手が保有している傾向にある。必ずしも大手の製品ブランドが占有しているわけではなく、中小メーカーが高シェアであることも多い。
  このような市場の状況をふまえ、本研究では、OTC製品を「即効性」「持続性」に分け、消費者心理として、どのような信頼形成要素と購買決定要素を持って、同じ製品ブランドを購買し続けているのかを把握するため、「消費者は何を決め手にOTCを購入しているのか」という切り口で調査した。加えて、OTCは医薬品として薬剤師によって消費者に受け渡される製品であるため、販売者調査を行なうことで、購買行動の決定要因の補足となる検証を試みた。
  消費者調査において「即効性」「持続性」製品を購買する場合の、決定要素の平均値の差を検定したところ、次の差があることがわかった。すなわち、消費者は、購買行動において、「即効性」製品を買う場合、比較的専門的知識を必要とするため、専門家の推奨を重視する傾向にある。一方、「持続性」製品を買う場合、比較的専門的知識を不要とするため、合理的理由、感覚的理由、購買前の経験をもとに自分自身の判断でセルフセレクトする傾向にある、ということが明らかになった。
  また、販売者調査においても消費者調査結果を補う結果が出た。すなわち、販売者は「即効性」製品を推奨する場合、製品の効果・効能の差別化がわかる要素を重視し、「持続性」製品を推奨する場合、消費者の合理的理由、感覚的理由、経験をもとに自分自身の判断でセルフセレクトできる情報を与えられる要素を重視する傾向にある、ということがわかった。