
9月16日(水)午後7:30から日吉キャンパス協生館5階のエグゼクティブセミナールームに参加者50名を迎え、岩本隆特任教授の講演が行われました。
まず、岩本特任教授が以前勤務していたコンサルティング会社で、社員を「ビジネスプロデューサー」と呼んだことが、岩本特任教授の造語した「ビジネスプロデュース論」の淵源であることが説明されました。具体的にビジネスプロデュースとは、「0のものを1にするアイデアの商品化、1のものを10にするビジネスモデルの構築、10のものを10,000にする量産化」というそれぞれ質のことなるフェーズを連動させ実現するという困難な役割を果たすことである、と説明されました。また岩本特任教授がコンサルタント会社で担当した環境・エネルギーやバイオテクノロジーといった新産業分野の育成には、民間の力だけでは限界があり何とか政策を動かすことが出来ないか、という発想を得たことが説明され、「政策は守るもの、政策は動かせない」という固定概念から脱却し、「政策は変えるもの」という発想に立てば既存のルールを変え、マーケットを創造するというビジネスプロデュースの機能に繋がることが強調されました。そして、ビジネスモデルの企業化の第一歩を政策で後押しすることの重要性と、補助金はあくまでも政策手段の一つに過ぎないことが指摘されました。そのうえで、ビジネスプロデュースのプロセスは、新産業の構想を作り、それをベースに戦略を立て、個人の力の限界を打破するためにパートナーを募り、市場を作る上で必要なルールを作り、社内外で進むプロジェクトを推進・マネジメントし、結果を出すという一連の流れをトータルに扱うことであることが説かれました。
次にルール作りの観点から、Business Government Relationship (BGR)の重要性について、IT産業で世界をリードしていた日本企業が、何故米国企業に遅れをとるにいたったのかについて、法的整備が遅れていたIT市場の揺籃期にGoogle等はまずマーケット・シェアを確保したうえで、グレーゾーンの部分に関する政策や法制を整えることを先導したこと、これに対して日本企業は、90年代に米国での幾つかの訴訟で敗北したあとグレーゾーンの部分を回避し能動的な動きをしなかった、という相違から「日本企業は政策で負けた」ことが説明されました。ついで日本の新規産業に対する政策支援が、R&D・製品化・量産化について小口かつバラバラでグローバル展開支援も無いのに比べ、米国は構想からスタートし集中的で大規模な支援、標準化・規格化重視、トップ外交による市場拡大等がセットとなった政策支援を行っていることが指摘されました。日本における「スマートシティー・プロジェクト」では、従来の日本式のやり方を根本から見直し、トップダウンで優先順位を付け、5年の予算をつけてビジネスモデルが成立するまでフォローすることとし、ビジネスプロデュースというマネジメント機能もビジョンの中に含めたこと、本年3月でプロジェクトが終了し、今後は海外展開を目指すことになっているとの解説があり、その他の日本におけるビジネスプロデュースプロジェクトの概要が説明されました。
ここでビジネスプロデューサーの特徴として、①俯瞰する、②成功体験がある、③楽しんで取り組む、④謙虚になる、⑤相手の立場に立つ、という項目があげられました。
最後に、2014年度に経済産業省に「ルール形成戦略室」が創設されたことについて、日本が有利になるようなルールを作り良い製品が高い価格で売れるような規制を作る、という新たな動きの現われであるとの説明がなされました。具体的にこうした動きの中で、日本企業の成功例として、ヤクルト、ダイキン工業、低品質な省エネ器具の排除、日中政策対話を通じて実現した事例が紹介され、こうした動きをとるために必要な企業における組織・体制とビジネスプロデューサー育成の仕組みについて言及されました。
ビジネスプロデュース論のまとめとして、①既存の市場にとらわれるのではなく、市場を創るために仕掛ける、②0から10,000までトータルに考え、連携し、実行する、③既存の枠組みを超えて考え活動する、が強調されました。
質疑応答では、講演内容や参加者自身が直面する問題に関する質問が出るなど、活発な議論が行われました。
参加者の声
- 新規事業を考える時、足許の商売を考えてしまいがちですが、本日は、業界の壁・企業の壁を破り市場を造っていくという大所高所の思考ができ、とても有意義なひと時でした。ありがとうございました。
(業種:機械/役職:課長) - 新規事業開発担当として、ビジネスプロデューサーとしての役割、求められる資質等、非常に参考になりました。
(業種:情報通信/役職:マネージャー) - DIで実践されてきた実例をもとに、ビジネスプロデュースの重要性とビジネスプロデューサーの必要性を明快に理解することができ、今後の自身のビジネス推進に役立つ「気づき」を大量に頂ました。特に、市場を創っていく為には仕掛けるプレイヤーの動きを分析することが重要で、それを踏まえてルール形成にテコ入れを図ったり、成長ステージに合わせたマネジメントを一気通貫に行っていくこと、単体で実現できなければ業界の枠を超えて新しい枠組みを創造していく、こうした視線は今後のビジネス拡大に活かしたいと思います。
(業種:サービス/役職:代表取締役) - 新しい言葉「ビジネスプロデュース論」、学問とビジネスを融合した内容で面白かったです。現在、経営企画部で業務をしているので、発想を変えていかなければと思いました。
(業種:証券・商品先物取引/役職:副部長) - ビジネスプロデューサーをどう育成し、増やしていくか? ふんだんな事例により、多くのヒントを得ました。
(業種:サービス/役職:代表取締役)
開催概要
名称 | 2015年度KBS特別講座 ―EMBA開講記念企画― 第3回「ビジネスプロデュース論」(岩本 隆特任教授) |
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日時 | 2015年9月16日(水)19:30~21:30(19:00開場) |
会場 | 慶應義塾大学 日吉キャンパス 協生館5階エグゼクティブセミナールーム 会場アクセス |
参加費 | 無料 |
定員 | 50名(抽選) |
担当講師

岩本 隆
特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。外資系グローバル企業での最先端技術の研究開発や研究開発組織のマネジメントの経験を活かし、DIでは、技術系企業に対する「技術」と「戦略」とを融合させた経営コンサルティングや、「技術」・「戦略」・「政策」の融合による産業プロデュースなど、戦略コンサルティング業界における新領域を開拓。慶應義塾大学ビジネス・スクールでは、「産業プロデュース論」を専門領域として、新産業創出に関わる研究を実施。ICT CONNECT 21普及・推進ワーキンググループ座長、Eco Design実行委員、研究・技術計画学会ブレイクスルー研究会幹事、みんなの夢AWARDアソシエイトプロデューサー、産業技術総合研究所集積マイクロシステム研究センター外部評価委員。
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