2017年8月3日(木)、慶應義塾大学ビジネス・スクール特別公開講座として、フェリックス・オーバーホルツァー・ジー教授(ハーバード・ビジネス・スクール)による講演 “The Digital Economy – Pathways to Sustainable Success” が、同大学三田キャンパス北館ホールで開催されました。参加者は200名超となりました。
本講演では、業務のデジタル化によって事業の根本が変革される事例が紹介され、それこそがDigital Economy(デジタル経済)の真の意義とチャンスであること、その実現には、リアルタイムの情報に基づく的確な分析だけでなく、働き手の「意欲」「やる気」が必要であることが示されました。また、今後企業がどのようにデジタル化戦略を実行・選択すべきかについて、「small“d”」「strategic」「transformative」というキーワードのもと3つのパターンが提示され、それぞれがもたらす変革の意味と、デジタル経済への参入やビジネスの改変において大切な視点が、様々な事例を交えて解説されました。
1つ目のsmall “d” とは、特別に新しいことをせず、従来からの製品や提供しているビジネスをオンライン化して正確性や迅速性を向上させるというモデルです。もちろん、こうしたデジタル化によりビジネスチャンスが広がることは広く知られていますが、経営戦略論の研究対象とはなりにくいものです。
2つ目のstrategicとは、顧客のニーズをリアルタイムに捉え、最適な商品やサービスを提供するモデルです。そこではもはやstatic(静的)なデータはあまり役に立たず、ある特定の瞬間にその人物が何を望んでいるか、どう振る舞っているかといったリアルタイムの情報、つまりSituation-specificな情報(状況に応じた特定の情報)を捉えることにより、商品やサービスの提供において新たな価値が生まれることが説明されました。
3つ目のtransformativeとは、strategicのモデルに加え、データ収集や技術の活用により、会社の事業が当初のものとは全く違う形態に変化することを指しています。デジタルデータの収集・活用を一定期間続けていると、そのデータが、本来の利用目的とは別の意味を持ち、他の事業に転用できるケースがあります。例えば、運送会社が事業管理のためにトラックの位置情報を収集し、特定の倉庫に多くのトラックが頻繁に集散しているというデータが得られた場合、そのデータは「倉庫を持つ会社の事業が活発である」という指標になります。ある運送会社は、このようなデータに基づいて、従来の運送業に、マクロ経済の景況予測を新たな事業として加え成長しています。このように、デジタル化により製品やサービスの価値が抜本的に変革されてしまうケースは多数観察されており、実はこのtransformativeこそが、デジタル経済において最も魅力的なモデルであることが説明されました。
また、デジタル経済の時代になると、新たな技術が分単位で次々に生まれてくるので、目の前の出来事に捉われず、自分が勤める企業や組織が今後どのような価値を生み出せるのか、どのように変化させることが出来るのかを分析し、small “d” のデジタル化に留まることなく、strategicのモデルに近づけるように考え方を変えていくのが大切なことであり、そうした姿勢がやがてtransformativeな変革に繋がっていくことが示されました。
最後に、デジタル革命にとって最も重要なことは、技術や手法ではなく、実は働き手の情熱や顧客への細やかな気づかいであることが身近な例で解説されました。質疑応答では、今後の日本企業がどのように変化していくのか、また日本企業のあるべき姿はどのようなものかといった議論が展開され、盛況のうちに終了しました。
参加者の声
- 最近の企業の事例を豊富に紹介しながら、情報化の進展により変化してきている消費者行動・企業行動をロジカルに説明いただき、大変多くの気付きを得ました。
- 日本でのビジネスビジョンを考えるにあたり非常に役立ちました。
- デジタルエコノミーから新しいビジネスモデル(ネットワーキングやオープンイノベーション)、日本経済が伸びるために、生産性を高める方法の示唆まで幅広く聞くことができ、充実した時間を過ごすことができました。
- デジタル社会における変化への対応がいかに重要か、また、カスタマー視点で視野を広く持てることが鍵だと実感しました。
- どの時代にあっても顧客ニーズへの対応は極めて大切であるし、どの事業分野においてもまだ気付いていないニーズの存在がある。日本企業はハードに目が向き過ぎていることを実感しました。
- 最新の事例を多数紹介していただき、世界で最先端を行っている流れを短い時間で感じることができました。素晴らしい機会をありがとうございました。
開催概要
タイトル | “The Digital Economy – Pathways to Sustainable Success” |
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講師 | フェリックス・オーバーホルツァー・ジー教授(ハーバード・ビジネス・スクール) |
開催日時 | 2017年8月3日(木)19:00~21:00(18:30開場) |
会場 | 慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール 会場アクセス |
参加費 | 無料 |
定員 | 200名(先着順) |
言語 | 英語 ※逐次通訳つき |
担当講師

Felix Oberholzer-Gee/フェリックス・オーバーホルツァー・ジー
ハーバード・ビジネス・スクール教授
チューリッヒ大学で経済学修士号(首席修了)、同経済学博士号取得。スイスのプロセス制御設計会社Symo Electronicsの取締役およびペンシルベニア大学ウォートン校での教職を経て、2003年よりハーバード・ビジネス・スクールで教鞭をとる。企業のシニア・エグゼクティブを対象とした講座を中心に競争戦略論の授業を行っている。ハーバード・ビジネス・スクールの2年生を対象とした「Strategies Beyond the Market」の授業は、もっとも人気のある授業のひとつである。これまでに数々のティーチング・アワードを受賞。
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