「流通業態の動態における利便性強調型流通業」
『三田商学研究』 第49巻4号 慶應義塾大学商学会 (2006年10月)
時間の経過にともなう流通業態の変遷をいかに説明するかは、小売業態の動態の解明という形で、小売研究における重要なテーマの一つを形成してきた。そのため、古くは「小売の輪の理論」以来、小売業態の動態の解明には、今日まで多くの研究努力が投入されてきた。
ところが、従来の小売業態動態論は、主に価格強調型業態とサービス強調型業態の動態関係に焦点を当て、サービス強調型業態におけるサービスの中身については、ほとんど説明対象としてこなかった。また、説明要因に関しても、主に競合関係に焦点が当てられ、顧客の購買行動は、競争対抗の結果として選好分布のなかで生じる不満顧客の存在や顧客の生活水準の向上等が取り込まれているにすぎず、必ずしも多くは語られてこなかった。
本稿の目的は、過去20年間のわが国の流通を振り返ったとき、最も注目を浴びるべき流通業態に含まれるであろうコンビニエンスストアとオフィス向け通信販売に注目し、それらの成長理由の検討を通じて、流通業態が提供するサービスの中身に立ち入った形で、流通業態の動態を説明するための一般的枠組みを提示することにある。
そこでは、流通業態の戦略次元として、市場細分化の程度、価格に加え、購買利便性とカテゴリー利便性が取り上げられ、戦略次元相互の関係が分析されるとともに、これらのなかで、利便性強調型流通業態を含む代表的な流通業態が位置付けられる。さらに、流通業態戦略次元のあり方を規定する要因として、標的購買の購買関与度と製品判断力が抽出され、それらの規定関係が提示されるとともに、コンビニエンスストアやオフィス向け通信販売に典型的にみられる運営システムのイノベーションの役割が、上記の枠組みのなかで説明される。
1. はじめに
2.マーケティングと市場細分化
3.購買利便性とカテゴリー利便性
4.流通業の戦略次元
5.流通業における戦略ポジション
6.戦略ポジションの規定要因
7.流通業態イノベーションの役割
8.おわりに