「小売業態の動態における真空地帯と流通技術革新」
『商学論究』、第52巻 第4号、関西学院大学研究会、(2005年3月)
1.はじめに
本稿は、小売業態の展開について、新たな説明枠組みを提示しようとするものである。
ここで、小売業態とは、小売店における小売ミックスのパターンである。したがって、典型的には、百貨店、食品スーパー、コンビニエンス・ストアなどが、小売業態とみなされる。
小売店は、各消費者の買い物起点(自宅や通勤・通学先など)からの距離という制約のなかで、より多くの消費者の愛顧を獲得すべく、小売ミックスにおいて競合店に対する差別的優位性を追求している。そして、この競争のなかで、小売ミックスのパターンとしての小売業態も進化し、成長し、あるいは衰退し、また新たな小売業態が生まれてくる。
このような時間の経過にともなう小売業態の変遷、つまり小売業態の展開をいかに説明するかは、小売研究における重要な理論テーマの一つであった。
また、実務的にも、小売業態の展開の解明は、きわめて大きな重要性を有する。
第一に、それは、小売業者にとっては、店舗の魅力と競争力、ひいては店舗の行く末にかかわるものである。第二に、小売業態のあり方は、そうした小売店を通して製品を流通させる製造業者や卸売業者にとっては、マーケティング・チャネルの動向を左右する。マーケティング・チャネルにいかに影響力を行使するかは、製造業者や卸売業者のマーケティングにおいて決定的な重要性を有するだけに、小売業態のあり方はかれらのマーケティングの成果をも規定する。
このような事情を反映して、小売業態の展開の説明は、理論的にも実務的にも、多くの関心を集めてきた。
その嚆矢となったのは、いうまでもなく、McNair (1958) による、「小売の輪の理論」である。この小売の輪の理論以来、小売業態展開の説明には、今日まで多くの理論的努力が投入されてきた。本稿の試みは、こうした一連の理論的努力のなかで、位置付けられる。
以下では、まず次節において、小売業態論の原点ともいうべき小売りの輪の理論とそれに関する論点を概観する。そのうえで、第3節で、小売業態の展開に関するその後の研究を展望して、本研究の立場を明確にし、第4節以降、われわれの説明枠組みを提示していく。
2.小売の輪の理論とその論点
3・小売業態動態論の展開
4.小売業態分析の基礎モデル:消費者選択モデル
5.格上げ・格下げと真空地帯の発生
6.業態展開への制約
7.理想型としての寡占均衡
8.流通技術革新によるフロンティアの突破
9.まとめ