「医療用医薬品メーカーの流通チャネル政策」
1.はじめに
本稿の目的は、わが国における医療用医薬品を対象に、メーカーの流通チャネル政策の展開を振り返るとともに、今日の環境のなかで求められるチャネル政策の方向を提示することにある。
一般に、医薬品と呼ばれるもののなかには、街の薬局や薬店などで売られている一般用医薬品(大衆薬)と、医師の処方によって販売される医療用医薬品が含まれる。
歴史的には、1955年には48対52で、一般用が医療用を上回っていたが、1961年の国民皆保険の実現前後に、両者の比率は逆転し、その後は医療用医薬品の比率が増大していった。
確かに、今後は、政府の医療費抑制政策もあり、むしろ拡大が期待されるのは、一般用医薬品だという指摘もある。また、ドラッグストアの台頭やコンビニでの医薬品の取扱いなど、一般用医薬品の流通に関わる論点も多い。
ただ、本稿では、現状における重要性から、医療用医薬品に焦点を当て、それに関する流通チャネル政策を中心に検討を進めていく。
医療用医薬品の流通は、他の製品の流通と比べ、相当に特殊な世界だといわれてきた。これは、医療用医薬品という製品自体がきわめて専門的で、消費者は患者であるが、購買決定者は処方を行う医師であり、しかも支払いの大半は健康保険組合によって行われてきたという事情、そしてこれらゆえに政府の厳しい規制のもとにおかれてきたという事情によるものであろう。そのため、医療用医薬品の流通も、こうした特殊性を反映した形で展開してきた。しかし、医療用医薬品の特殊性にもかかわらず、近年におけるその流通の展開は、他の多くの製品の流通と共通している面も少なくない。
以下では、医療用医薬品の特殊性を踏まえながら、医療用医薬品におけるメーカーの流通チャネル政策の展開を振り返るとともに、今日の環境のなかで求められる流通チャネル政策の方向を検討していく。
具体的には、まず、次節と第3節は、医療用医薬品における流通チャネルの構造と取引慣行の概観に、充てられる。そのうえで、第4節と第5節では、医療用医薬品流通チャネルの構造と慣行を念頭におきながら、メーカーによる流通系列化の展開を跡付ける。さらに、第6節では、近年の卸売業者再編成の動きが、また、第7節では、卸売業者再編成に対応した流通チャネル政策の動きが、それぞれ検討される。そして、最後に、第8節において、以上の議論を踏まえたうえで、今日求められている流通チャネル政策の方向が提示される。
2.医薬品の流通チャネル構造
3.医薬品流通における取引慣行
4.医薬品流通における流通系列化
5.流通系列化の目的
6.卸売業者の再編成
7.流通チャネル政策の進展
8.医薬品におけるオープン型マーケティング