KOBAYASHI Laboratory
M22 藤田 明夫
『 本業特化型企業における事業構造転換に向けての
戦略分析ならびに提言 』
これまで、電力各社は本業に特化した、発電から送電,配電,営業の一連の垂直的価値連鎖を築いて電気の安定供給の義務を果たしてきた。その電力業界に電力自由化という、かつてない経営変革の波にさらされ、その打開策として、新規事業展開を電力各社とも経営課題として掲げている。新規事業展開による経営の多角化の意義は、大なり小なりの多角化は「必然」の問題であり、製品ライフサイクル上のバトン受け渡しの役割を果たし、また範囲の経済性への期待、更には事業のリスク分散効果もある。電気の安定供給第一としたマネジメントと、競争へ変わった経営環境に加えて新しいビジネスへ挑戦するというマネジメントでは、大きな違いがあるものと考えた。そこで、研究対象を本業に特化した日本の大企業として、過去の事例から類推される、事業構造転換に向けた処方箋,課題は何かを探ることとした。ここでの事業構造転換は、「経営の多角化による本業以外の事業セグメントに関する売上げの拡大」を指すこととする。
事業構造転換を大きくするためには、新規事業事業自体の競争優位性を大きくし、そして事業構造転換を促すための様々なマネジメント要素を多く取り込んでいくことが必要であると考えた。そこで以下の4つの分析視点で過去の事例を検討することとした。
Why(なぜやるのか)?,What(何をもってやるか)?How(どうやるのか)?
By Whom,By What(誰がどうやって変えていくのか)?
事例研究の結果、次のようなことが判明した。まず、豊富な資金力は戦術の多様性のみならず、新規事業において不足するスキルや事業シーズを外部から調達することが可能である。そのため、資金投入力の差でHow?のパターンは大きく異なってくる。また、事業計画創発型の場合、長期的展望での2つの「限界性」(@事業シーズ,Aコスト優位性)が存在することに留意する必要がある。そして、差別的スキル,綿密な市場戦略に裏付けられたオリジナリティに基づく事業を選択することが、事業構造転換に対してはより有意に働く。一方、事業構造転換推進力は3つの要素(経営危機醸成度,自己変革追求度,自己変革追求度)からなり、本業の将来不安という外生要因を受けて組織に制度で危機意識を訴求し、自己変革に向けての様々な施策を打ち出し、そしてそれらを束ねる有能なトップマネジメント,有効なビジョンが必要となってくる。また、事例研究で抽出した要素を代理変数に置き換えて定量的に分析したところ、資金力の大小及びマネジメント上の硬直性を除去するための組織の若返りが非常に有意に働くことが判明した。
以上の分析を踏まえ、以下のように結論付けた。経営環境の変化による誘因や会社全体が持つ経営資源は、事業構造転換を遂げるための有効な条件整備手段であるが、それを有意に働かせられるか否かは、部分変革に陥らずに会社全体を巻き込む改革となるように、全体でマッチングが取れた諸施策が必要不可欠である。そのためにまずは本業一辺倒から事業の多様性を求めることを社内外に明確化した事業ドメインの再設定もしくは長期経営ビジョンを制定し、企業内部における事業構造転換への意識の浸透を促すことがまず大切である。その上で、個々の新規事業に関しては事業計画創発型,事業戦略前提型双方の長所短所を踏まえた上で、オリジナリティに裏付けられた戦略を志向することが要求される。そして事業構造転換を推進させるためには、トップマネジメントにおける事業構造転換に向けた率先垂範の行動力及び社内外への変化のアピールによって変革の勢いをつけ、その上で、旧来の組織力学にとらわれない、柔軟かつ妥当性のある人材登用を励行し、個々人がミッションを抱いて「会社のため」ではなく「社会のため」に働くように意識転換を図ることが要求される。そういったことが、最終的には新規事業の現場において自由闊達かつ上司部下の関係なしの職場を作り出し、また、リスクを厭わない、チャレンジングな個々人の意欲を引き出すことにつながっていく。
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Last updated 04/03/22