KOBAYASHI Laboratory
M22 佐伯 貴志
『 新しい競争優位を築く企業変革 』
現在、多くの日本企業に「新しい競争優位」を構築することが求められているのではないだろうか。「IT技術の進展と普及」、「規制緩和の進展」、それらから派生する様々な「競争要因の変化」の結果、企業が従来持っていた競争優位が失われつつあり、維持することも困難になりつつある。逆に、新しい競争優位を築く機会は以前に比べ増加している。そして、株主重視の経営が浸透する中で、失われつつある既存の競争優位だけでは株主の期待に応え続けていくことが難しい。このような状況の中で、他社より優れた実績を上げ、株主の期待に応えていくことができる企業は、新しい環境において効果的に機能する競争優位を築く企業ではないかと考えている。しかし、一方で新しい競争優位を築くための企業変革を開始し、成功させることは難しいものと思われる。このことは様々な企業や政治の世界を見れば感じられることであろう。本論文の目的は、この必要ではあるが成功させることが難しい「新しい競争優位を築く企業変革」を成功に導く要因を明らかにし、変革を目指す企業に提言を行うことである。
本論文では「新しい競争優位を築く企業変革」を6つの類型に分類し、各々の類型の変革を成功させた企業を事例として取り上げ、それぞれの事例において(1)変革前と変革後の状態の違い(何を変革したのか)(2)変革のプロセス(どのようのに変革したのか)を確認することによって、各類型の成功要因を分析した。なお、事例として取り上げた企業は、GE、ヤマト運輸、ソニー、シスコ、シャープ、3Mの6社である。
分析の結果、各類型の成功要因が確認されるとともに、次の2点が明らかになった。1点目は、「全ての類型の共通点として、変革後は企業の様々な要素が整合性を持つ状態となっている」ということである。このことから「競争優位には企業の様々な要素の整合性が必要である」、「企業変革を成功させるには変革後に企業の様々な要素の整合性を持たせることが必要である」ということが言えるものと考えている。事例企業は変革後に強力な「要素の整合性」を築いている。それが対外的には強力で模倣困難な競争優位を作り、今日の優れた業績を生んでいるとともに、内部的には、変革への抵抗を抑え、全員が変革に向かう状況を作り出し変革を成功に導いていると考えるのである。2点目は、「各類型ごとに変革の成功要因は異なる」ということである。このことは、「企業変革を成功させるにはそれぞれの類型に応じた対応をとることが必要である」ことを示すと同時に、「企業変革には選択肢がある」ことを意味している。変革のパターンはひとつではない。企業は自社の状況や外部環境に応じて成功させやすい変革類型、効果のあがる変革類型を選択することが可能である。そして、それに応じた対応をとることによって、変革を成功させることの困難さを軽減することができるのではないかと考えている。また、事例分析の過程を通して変革の必要性を認識し、変革を開始するパターンには3つの種類があることに気付いた。変革の必要性を認識すること、そして開始することの困難さは様々な研究者によって指摘されていることであるが、これら3つのパターンを活用することによって認識、開始の問題への対処が可能になるのではないかと考える。
本論文では以上の分析結果を踏まえて、変革の必要性を認識するところから成功させるまでのプロセスに沿って提言を行った。それに加えて、変革が成功した後に企業は「硬直化」に対処する必要がある(変革していない状態では硬直化が進み、硬直化は変革の認識、開始、成功を妨げる)、ともすれば短期志向・縮小志向のみを意味しがちな「株主重視」と「新しい競争優位の構築」を並立させるには、株主と従業員の信頼と共感を得らるようなメッセージが必要であるという意見を述べている。
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Last updated 04/03/22