KOBAYASHI Laboratory
M22 庄司 幸永
『 国際標準策定に係る政策的課題とその対応 』
近年、世界経済の枠組みは劇的な変化を遂げ、市場や競争のグローバル化及び経済のボーダレス化が進展すると共に、グローバル・レベルで共有される国際標準に対する注目度が一層高まり、国際標準の策定及び導入に係る取組みの強化に向けた議論が活発化しているところである。
しかし、国際標準の策定に係る国際的動向を鑑みると、官民一体の標準化戦略を積極的に推進することによって主導的地位に立つ欧州や国際標準重視路線への転換を推進する米国といった国・地域と比較した場合、日本における国際標準化対応は極めて受身的であると指摘されているところであり、グローバル・レベルの競争優位性を獲得していくためにも、単に定められた結果としての国際標準を受容するのみではなく、国際標準の策定プロセスに積極的に関与していくことが急務であると考えられる。
そこで、本稿においては、「日本が強力なイニシアティブを有し、自国よりの技術・規格を基にした世界統一標準を策定していくためには7つの要素が密接に関連し、相互に強化し合うことが必要である」とする独自の仮説を基に、日本が従来までの受身的なイメージを払拭し、標準大国たる地位を確立するための方策に係る分析を行うこととする。当該仮説における7つの要素の導出に当たっては、国際標準化プロセスを「技術・規格創出アプローチ」及び「国際標準化実現アプローチ」の2つのアプローチに大別し、両アプローチを構成する要素(技術・規格創出アプローチにおける「技術・規格シーズ」・「標準化ニーズ」・「アライアンス」・「戦略的標準化意図」、国際標準化実現アプローチにおける「交渉力」・「アライアンス」・「戦略的標準化意図」)を国際標準化を実現する7つの要素とするものである。
本稿における分析については、過去に国際標準が策定された事例として「次世代移動通信(IMT−2000)」、「高度道路交通システム(ITS)」、「高精細度テレビジョン(HDTV)」及び「G3ファクシミリ」の4つを取上げ、各々の標準化プロセスにおける7つの要素に係る分析を実施したところであるが、事例分析の結果、国際標準化を実現するためには上記の7つの要素が必要であり、且つ7つの要素は密接に関連・強化し合うことで国際標準化を実現していることが確認された。
しかし、分析事例のうち「次世代移動通信」及び「高精細度テレビジョン」については、国際標準化は実現されているものの複数の標準が並存する結果となっており、世界統一標準の策定という観点からすれば、標準化プロセスにおける改善点が考えられるところであり、グローバル・レベルにおける標準の被受容性・適合性の向上、国際標準化プロセスにおける連携・協力体制の確立等に努めることが不可欠であると言える。
今後、本論文のテーマである国際標準化の積極的推進を実現していくためには、技術・規格を創出すること、国際標準化を実現するための推進力を醸成することを同時に実現していくことが不可欠であり、そのためにも両アプローチに係る諸要素を強化し、各要素間の相互強化作用を促進させていくことが重要な課題であると考えられる。特に、統一標準を策定するためには、技術・規格創出アプローチにおける「技術・規格シーズ」及び国際標準化実現アプローチにおける「アライアンス」を強化していくことが必要であり、技術・規格の受容可能性・適合性を向上させるとともに、統一標準の策定という目的に向けた協働を図っていくことが求められると考えられる。また、戦略的に標準化を推進する欧州の後塵を拝さないためにも、両アプローチにおける「戦略的標準化意図」を強化し、国際標準の策定を目的とした取組みを積極的且つ戦略的に講じていくことによって、日本における「戦略的標準化」を実現すべく努めることが肝要である。
標準化活動の主体は、基本的には、民間企業や民間機関であると考えられているところであるが、民間サイドにおける一層の注力を期待するとともに、諸要素の強化に係る取組みを支援・促進していくための政策的な取組みについても積極的に推進していくことが不可欠であると考えられる。今後、日本が標準大国へと変貌を遂げていくためには、国際標準化活動を重要政策として位置付け、政府が国としてのベクトルを示すことにより国際標準化推進の牽引役を務めると共に、様々な推進策・支援策を講じていくことが不可欠であると考えられるものである。
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Last updated 04/03/22