KOBAYASHI Laboratory

 

M27 朝倉 正樹

『組織学習と経営成果に関する一考察―金融業・サービス業におけるイノベーション・マネジメント―』


 【研究の目的】
 本研究の目的は2つある。1つは、サービス業を営む大企業において組織学習の能力を高めることがイノベーション能力を高め、更に経営成果を高めるかどうかを検証すること。2つ目は、組織として学習するプロセスがどのようなものかを解明し、それを構築するためのマネジメント要素を抽出することである。
 分析対象を定量分析ではサービス業の営業組織に焦点を当て、事例研究では更に金融サービス業に絞り込む。分析結果からメガバンクを始めとした伝統的大企業が連続的イノベーションを起こして、競争優位を築いていくための提言を行う。

 【研究のプロセス】
  先行理論研究を基に「組織学習の5つの能力」、サービス業における「改良」と「多様化」という「イノベーション」、経営成果としての「持続的競争優位性」と「企業変革性」について定義を行い、各々の関係について仮説を導出した。
仮説の検証方法として、定量分析と事例研究を実施した。定量分析では、東証1部上場の非製造業の営業部門宛てに組織学習の活動、及びイノベーションの能力に関するアンケートを実施。経営成果のデータとして2000〜2004年の5年間の財務データを基にした成果指標に関するデータと併せて、統計的方法を用いて「組織学習⇒イノベーション⇒経営成果」についてのモデル化を行った。また、事例研究として金融サービス業から4社選定し、文献研究、及びインタビューを実施した。その結果からイノベーションの種類、その成功・失敗を考察し、組織学習の能力を高めるためのマネジメント要素を類型化した。

 【主要な結論】
  金融業・サービス業の場合、持続的な競争優位性の構築には新しいサービスを多様化していくより、既存のサービスの改良を行って顧客の利便性や自社の業務プロセスのコスト削減を行った方が成果に結びつき易い。一方、大企業が機能不全に陥るのを防ぐために必要な革新性を与えるためには、サービスの多様化の方がサービスの改良より成果に結びつき易いということが分かった。
また、サービスの改良と多様化という2つのイノベーションに対する組織学習のプロセスは異なる。サービスの改良には組織学習の5つの能力の内、組織内で水平方向に知識を移動させ、外部からの知識を企業内部のプロセスに合うように読み替える能力が重要である。一方、サービスの多様化には既存の企業内にある成功体験や前例をゼロクリアし、顧客、他社、他部門からの知識を積極的に内部に移植することが重要である。また、大企業が持続的に競争優位を構築するためには組織学習の5つの能力全てを高めていく必要があることも分かった。
組織学習の能力を高めるためには、経営方針の浸透を図りながら、顧客接点の現場での自律的な知識のgive & takeを促すようなマネジメントが大切である。具体的には権限委譲を伴った組織横断的なプロジェクトの推進、権限と業績評価制度とのバランス、短期利益志向の排除、現場の上司や部下のスキルアップに留意すべきである。

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Last updated 05/03/10