KOBAYASHI Laboratory

 

M27 田中 美亜

『1990 年代の日本企業同士のM&A ―支配権の移動に伴うマネジメント・スタイルに関する一考察―』


 M&A は、企業経営者にとって企業価値を増大させる重要な戦略オプションのひとつである。近年M&A の戦略的意義が着目され、件数も増加傾向にある。しかし、実施された案件を見ると、必ずしも良い成果が達成されていないケースが多々ある。その要因は複合的であるが、特に経営陣構成がM&A 実施後の企業業績に影響するのではないかと考える。つまり、「経営陣の能力」と「M&A 後のマネジメント・スタイル」が重要な要素であると私は考える。経営陣の入れ替えは、経営陣の能力の一部を反映する事象であると考えるならば、M&A を実施した企業にとって経営陣構成がその後の業績に影響を与えると言える。M&A に係る戦略はPre M&A 戦略とPost M&A 戦略に大別できるが、当論文では後者に着目し、特に被買収企業経営陣の入替がM&A 後の企業業績に与える影響について検証する。

 私の仮説では、日本企業経営ではM&A を実施した後、被買収企業経営者を残留させることがその後の業績に好感するという考えに基づく。経営陣は企業の実力を理解しているのみならず、その歴史や哲学をも熟知している存在だと考えるならば、企業内外のステークホルダーにとってシンボル性があると言える。よって、経営陣の退陣は企業業績に負の影響を与えると仮説する。そしてM&A 実施前に好業績であるほど経営陣退陣は負の影響を与えると考える。しかし、経営陣退陣の影響は、M&A 後の年数が経過するにつれ平準化されるものと考える。これは、年月の経過と共に経営陣退陣による影響度が薄まり、他の要素の影響度が強まるからだという考えによる。さらに経験は蓄積されると考えるならば、M&A の経験回数と企業業績は関連があるという仮説を設定することができる。

 実証研究と事例研究の結果によれば、以下の結論が導き出される。
@ 1990 年代の日本企業同士のM&A においては、被買収企業経営陣退陣率と企業業績は正の相関があった。被買収企業が悪業績であった場合は経営陣を入替えるべきである。
A 1990 年代の日本では、買収経験回数と企業業績が何らか関連ある傾向が見られた。
B M&A を成功させる最重要課題は、ハードおよびソフト面の統合であり、長期的スタンスで取り組むべきである。
C 買収企業は、被買収企業の経営陣構成を如何に活用するかを精査すべきである。特殊な技術を要する分野であればあるほど、この点は重要性を増す。
D 被買収企業の業績が悪い場合には、経営陣の入れ替えは早急に意思決定すべきであるが、経営陣を入れ替える場合は、社内の混乱を低減するためにも段階的に温情型の組織改革を行うべきだ。

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Last updated 05/03/10