中塩 大毅

実務の知見を理論にぶつけて、深める。広げる。


中塩 大毅
外資系コンサルティングファーム、大手広告代理店を経て独立。
現在は小規模な事業の連続売買や、ヘルスケア、流通業界における支援に従事。
2024年4月よりKBSへ入学。


 市場の不確実性が高まる中、経営層は、より一層困難な意思決定を行う必要性が高まってきた。その意思決定には、現状を見つめ直し、必要な能力を認識、獲得することが重要である。そこで企業経営者として、企業の意思決定に携わってきた中塩大毅君に、これまでの実務経験の振り返りと、ビジネススクールに期待していたこと、そしてビジネススクールを通して新たに認識した事柄についてインタビューを行った*。

コンサルティングファームから独立され、企業経営のノウハウをお持ちだと思いますが、MBAを取得しようと思ったきっかけは何ですか?

 現場で培った実務経験を、アカデミックな理論の世界に照らし合わせることで、自身の知見を補強し、さらに拡張したいと考えたためです。
 実務では、その都度必要な知識をインプットし、アウトプットを繰り返す中で、知見が断片的に積み上がっている状況にありました。また、日々新たな経験を重ねる中で、学びをより深く掘り下げて考えたいという気持ちは常にありましたが、現場ではスピード感が求められるため、目の前の仕事に追われる日々が続いていました。そうした環境の中で、一つ一つのビジネステーマをより深く、体系的に考える時間を確保したいと思ったことが、MBA取得を決意したきっかけです。

KBSでの学びは、入学前のプラン通りでしたか?

 どちらもありますね。
 まず、想定通りだった点として、既存の枠を超えた学びが得られたことが挙げられます。特に、知識の拡張という面では、理論を探求してきた教授陣の講義を通じて、知っているつもりになっていた知識の本質的な深堀りや、足りていなかった論点の幅の補強ができた事が大きな学びとなりました。また、多様なバックグラウンドを持つ学生たちとの交流を通じて、多角的な視点に触れる機会も得られました。これにより、自分自身の思考の癖や、当たり前だと考えていた知識を改めて問い直すことができ、本質を追求するきっかけになったと感じています。

 一方で、予想外だった点もあります。入学前は、実務を通じて得た知見を補強し、企業が抱える課題を解決する能力を高めることを目標としていました。しかし、講義を通じて幅広いテーマに触れるうちに、個社単位の課題を超えて、産業全体の問題解決や国単位でのマクロな政策に関心を持つようになりました。
 実務では、個社単位でコントロール可能な問題に取り組む一方、業界全体の市場構造や規制、慣習が変わらなければ解決できない問題が多く存在していることを理解していました。しかし、現場ではスピード感が求められるため、目の前のアプローチ可能な課題に集中せざるを得ない状況が続いていました。現在、KBSでのケースメソッドを通じて、社会や業界全体の課題にも向き合う機会を得ています。それらをどのように解決するかを突き詰めて考えるうちに、自分の興味が次第に広がり、経済学と経営学を組み合わせたアプローチに大きな可能性を感じるようになりました。この視点をさらに深め、研究してみたいと考えています。

実務から離れると思いもよらない発見がありますよね。ここまでの1年で、印象に残った授業や先生はいますか?

 経済学の後藤先生の授業が印象的でした。後藤先生の授業は正解を一つに定めず、学生の意見を引き出しながら理論を構築していくスタイルが特徴的です。講義はアセモグル氏の経済学のテキストに沿って展開され、毎回の予習では、「日本の貧困の現状と対策について考えてください」など、シンプルで誰にでも考えられる問いが出題されます。
 そのシンプルな問いを経済学の理論を活用して深く考えた上で講義に臨むのですが、発言の際に理解を深めるためにあえて例外や反論を投げかけてみても、先生から圧倒的な知識量と論理的に納得のいくフィードバックをいただけるので、私自身、学生という立場を使って全力でぶつかり稽古をさせていただきつつ、毎回の授業で感銘を受けていました。(笑)

 

最後になりますが、MBAで今後どのような力をつけていきたいですか?

 大きく2つ考えています。
 1つ目は、ミクロとマクロを繋げる思考力・分析力をこれまで以上に磨く事です。
企業単位の課題解決にとどまらず、業界全体や社会全体の構造を理解し、そこで生じる問題へアプローチする力を一層高めたいと考えています。コンサルタント時代は個社対応が中心でしたが、KBSを通じて経済学や産業構造の分析など、より体系的・俯瞰的な視点を深める事ができました。今後は規制や慣習、マクロ政策なども視野に入れた戦略策定・実行へと広げていきたいです。
 2つ目に、新たな価値創出への研究心を深めたいと思っています。
 経済学と経営学を組み合わせたアプローチに可能性を感じており、理論の理解だけでなく、社会や業界を変える具体的なアイデアに落とし込むところまで追求したいと思っています。
 KBSで学んだ知見は、産業構造や政策を踏まえた問題解決を深めるうえで大きな役割を果たしており、自身の探究心をさらに高めてくれると感じています。今後も研究志向を持続しながら、学びをビジネスや社会の課題解決へと繋げていきたいと思います。
そして、最終的には、実務で培ってきた経験を土台としながら、産業や社会が抱える大きな問題にまで働きかけられる力を身につけたいと考えています。

実務経験を通じた貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

*本記事は、慶應義塾ビジネススクール学生により、M47期広報委員会独自タスクである
<ビジネススクール連載 〇〇に聞く>の一環で企画、作成された。

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