2025年01月15日
2024年11月15日(金) 「経営者討論B」(第6回)が開催され、鍋屋バイテック会社 代表取締役社長 岡本 友二郎様にご登壇頂きました。「鍋屋バイテック会社の歩みと今後 ~伝統と革新~」 を演題とし、EMBA科目履修者との意見交換がなされました。
鍋屋バイテック会社は、1560年(永禄3年)の創業からなんと450年を超える歴史を有する、岐阜県に本社を置く鋳物メーカーです。同社の主力製品であるプーリー(モーターやエンジンの動力を機械に伝えるための回転体)をはじめとする部品は、ビル・地下街などの空調・給排水ユニットや、半導体や液晶パネルの工場内のクリーンルームなどの空調設備に使用されており、私たちが暮らす社会インフラを支えています。
2000年代以降の急速なグローバル化やデジタル化といった産業構造の変化を踏まえ、同社は、中国(蘇州・常州)に海外製造拠点を設け、米国に営業拠点を置き、欧州にも戦略パートナーとビジネスを展開し、国内市場の縮小に着実に対応しています。また、従前の強みである商品開発や技術開発に加えて、デジタルを触媒とした販売戦略やプロモーションを統合、マーケティング機能を強化することより、流通構造の変化への対応や、多様化する顧客接点の更なる充実を図っています。
本討論の前半では、岡本社長に近年の同社の歩みをご紹介頂きました。また後半では、岡本社長と我々EMBA学生との質疑応答がなされ、四半世紀を超える一族会社の経営者としての矜持やプレッシャー、社員との向き合い方などにつき、真剣な議論が交わされました。
特に「社員全員と会話をしながら、戦略や方針を決めている」「プレッシャーを感じたことは一度も無い」といった岡本社長のお話は、同社の経営者としての独自の考え方や人間性を表す印象的なエピソードとして、我々EMBA学生にとっての学びや気付きに繋がりました。
さらに、「人材を大切にし、個々の強みを活かすことが、企業の成長につながる」という言葉は、リーダーとしての視点を改めて考えさせられるものでした。特に、従業員が自己成長を図るためのハード・ソフト面の支援や、資格取得に応じたマイスター制度等、社員一人ひとりの主体性を尊重し、働きがいを具現化するための具体的な取り組みに感銘を受けました。
(筆者である)私は常々、企業に於ける「経営戦略」は、人間に於ける「人生戦略」と本質的には同義であると考えています。自らは何を目指しどのように生きたいのか、誰と生きたいのか、そして(時には他者との競争に)勝ち残るために何をすべきか?ということを考え、判断し実行するという点に於いて、企業も人も変わらないと考えるからです。
とりわけ、売上や利益という外形的なものにとらわれることなく、ブランドや商品デザイン、サイズと値段、販売を全て自社で決めるという同社の価値観は、まさしく「自分の人生を自分で決める」という人生の哲学そのものであり、ひいては企業として時代を超え、永続的に生き抜くための''揺るぎの無い主体性''が存在しているものと、私は感じております。
昨今の変化の激しいビジネス環境に於いて、既存事業の拡大、新規事業の創造のどちらが大切なのか?
或いは最適な会社の形やガバナンス体制はどのように在るべきか?といった問いに対し、我々はともすれば近視眼的な答えを求めがちです。今回の岡本社長との経営者討論を通じて、改めて経営者としての責務や超長期の俯瞰的視点の重要性につき、深く再考させられる有意義な機会となりました。
E10編集委員 秋元城司