2024年12月24日

学生有志による「横浜病院見学」が開催されました

 「KBS進学前、製薬メーカーで精神科専門MR(営業職)を務めていた。だからこそ、身体拘束ゼロ達成のすごみを感じるし、実現までのプロセスにも感動した」。M46期(現修士2年)の一條祐太氏は、こう振り返る――。

 2024年11月29日、医療法人社団元気会横浜病院(神奈川県横浜市緑区)を、M46期の有志9名で見学した。

 横浜病院は、KBS2学期開講科目「病院経営Ⅱ」のケース教材となっていることや、同科目に北島明佳理事長にゲストスピーカーとして登壇いただいた縁がきっかけで、本見学会が実現した。

 横浜病院は、270病床を擁する療養型医療施設で、急性期病院での治療は終了したが自宅や施設では生活が困難な患者に、サポートやリハビリテーションを提供している。高齢者や認知症患者が多く入院していることも特徴だ。

 業界内で横浜病院が注目を集める理由の一つが、「身体拘束ゼロ」の取り組みである。
 身体拘束の目的として、「患者の身の安全」として行われることが多いが、それに反して、筋力低下などの肉体的影響だけでなく、不安感情や認知症悪化などの精神的影響が起こるとされている。

 横浜病院では、2012年4月から身体拘束廃止活動を開始し、2016年に達成した。上述した肉体や精神への負の影響をなくしたいとの考えからだ。北島理事長は、「身体拘束を解除できないと思い込んでいる"医療従事者の思考"を変えることからはじめ、実践してきた」と胸を張る。

 2024年現在も、基本的に身体拘束ゼロを達成しているという。こうした患者への向き合う姿勢が支持され、常に入院希望者が10人程度いる"患者から選ばれる病院"となっている。

 一方、職員採用においては、シビアな選考が行われている。身体拘束ゼロなどをはじめ、他の病院に比べて、要求される水準が厳しいことが一因である。今日では、医療人材の不足で、「志望書を出せば即採用」という売り手優位の医療機関も多いが、横浜病院の採用率はわずか8%となっているという。言い換えれば、100人の応募者がいても、8人しか採用されないのだ。

注力するユマニチュードの専属インストラクター。(提供:横浜病院)

 目下、横浜病院は、「ユマニチュード」に取り組んでいる。

 ユマニチュードとは、フランス発祥の認知症ケア技法で、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つをベースに認知症患者にケアを行うというもので、日本でも徐々に広がりを見せている。横浜病院には、2名のユマニチュードインストラクターが在籍している。

 病棟見学では、こんなシーンを目撃した。

 医師が患者の部屋に入る際、ドアを3回ノック。何も言わず3秒待つ。返事があれば入室、なければ 再び3回ノック。そして、 再び3秒待つ。反応がなければ、1回ノックして「失礼します」と声をかけてようやく部屋に入る――。

 認知症患者が医療スタッフとの対面を受け入れるまで、じっくりと時間をかけるのがユマニチュードの特徴だ。こうすることで、認知症患者が心の準備をすることが出来るのだという。日本での認知症患者は増え続ける中、具体的なユマニチュードについて触れることが出来たのは、現場見学会ならではだった。

 北島理事長は、「医療の質を高めるには経営の質の向上が不可欠です。KBSで学んだような人材が多くの病院で活躍してほしい。病院変革はとても面白いし、やりがいがあることを知ってほしい」と語る。

 病院経営Ⅱを履修し、横浜病院見学会を企画したM46期のイヨンジュン氏は、「KBSで学ぶ医師や製薬会社などが参加し、各々の視点で学びを得ることができた。身体拘束ゼロの考え方は、固定観念からの発想の転換。規制産業の医療業界においても、できることはまだまだあると感じた」と振り返る。

 診療報酬改定や人手不足、そしてインフレなどで病院経営は厳しさを増す。"選ばれる病院"となるには、どうすれば良いのか。横浜病院から学ぶべき点は多い。

M46期 山本興陽

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