2025年11月22日

私たち慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)のEMBA生が、2年間にわたり挑む必修科目「ビジョナリー」。 これは、「答え」を出すことに馴染んでいた私たちが、「望ましい未来」そのものを描く、壮大な「問い」の旅に乗り出した軌跡です。
千変万化の環境の中、不確実な変化に世界が揺れ動く時代。だからこそ、経営者には目先の変化に一喜一憂しない、揺ぎない価値観が求められます。
この問いこそが、KBSのEMBA11期生58人が「大義ある未来」を描き、その実現に向けた打ち手を「構想する」私たちの旅の始まりなのです。決まった答えも、正解もありません。だからこそ私たちの探求のすべては、多様な業界で実務を重ねてきた58人の仲間と、社交辞令を取り払い、切磋琢磨する時間の中にあります。
2025年4月の入学から半年間、それぞれのペースで始まった第一期。私たちの探求は、まず業界ごとのチームに分かれ、参考図書を元に予測される30年後の「未来像」について理解を深めるところから始まりました。その上で、それぞれの業界の「ありたい姿」を思い描く。そこから、私たちの旅は始まったのです。
ここからが本当の挑戦でした。なぜなら、私たちの探求は普段の仕事におけるプロジェクトマネジメントとは全く異なるアプローチを必要としたからです。業界の垣根を越えた新たなグループでは、明確な目標とプロセスを「決めよう」とする声と、あえて「決めずに」探求を進め、偶発的な発見を大切にしたいという声が共存しました。実務経験を重ねてきた私たちにとって、この両者の間で揺れ動くことは、正直なところ戸惑いの連続でした。
そうした中、私たちの思考を揺さぶり、視野を広げてくれたのが、教室の内外で得た強烈な体験でした。海外からの招聘講師によるグローバル経営の授業や、カンボジアでのフィールドワークは、私たちに新たな視点と発見をもたらしました。この学びが触媒となり、私たちの活動は未来社会の実験場である万博への訪問や、復興の最前線・福島県双葉町の視察など、新たなフィールドワークへと自律的に発展しています。
この「自律的な探求の精神」はすでに次へと向かっており、実際、次なる探求の旅を検討する声も上がっています。こうした具体的な計画以上に、私たち自身がこの「自律的な探求の精神」を発見できたこと自体に、この半年の大きな価値があったのだと感じています。
そして、これらの多様な経験こそが、私たち一人ひとりにとって、自分自身を深く見つめ直す機会となりました。クラスという一つの大きな探求の中に、58人それぞれが自身の興味に基づいた、新たな「個人の探究の旅」を始めた瞬間でもあったのです。
こうして生まれた58通りの探求は、私たちの議論に、これまでにない広がりと深みをもたらしました。その多様な可能性をさらに探求していく上での「共通の土台」となったのが、「バックキャスト」という考え方だったのです。
それは、「何ができるか」という現在地からの発想ではなく、「どんな未来が望ましいのか」という理想からすべてを逆算して考える、思考の転換でした。企業の価値が、金銭的な指標だけでなく、社会の中でどのような役割を果たすかによって問われる時代なのだと、私たちは肌で感じていました。
58人の探求の旅はまだ始まったばかりです。第一期の議論から生まれた無数の問い。これらを第二期でどう深めていくのか。あるいは、それすら一度立ち止まり、全く違う方向性に向かうことになるのかもしれません。そのプロセス自体も、私たちの学びの一部なのです。
KBSが目指す「時代を先導する経営者」には、長期的な視座と短期的な柔軟性の両立が求められると言います。私たちのこの旅は、その壮大なテーマに、悩み、格闘しながら挑むプロセスそのものなのかもしれません。
58人の視点が交差し、磨き上げた先に、私たちは何を世に問うことができるのでしょうか。2年間を終えるとき、さらにその先を見据え、私たち自身がどう社会と向き合っていくのか。その答えを、この旅路の中で探し続けていきたいと思います。ご期待いただければ幸いです。
以下、第一期委員コメント
文責:ビジョナリー科目 E11 第一期編集委員
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