2026年04月28日

いい経営者は「いい経営」ができるのか − 株式会社カインズ 高家社長特別講演~

 2026年03月11日、株式会社カインズ 代表取締役社長CEOの高家正行様をお迎えし、特別講演を開催いたしました。本講演は、小幡績教授の企画により実現したものであり、授業期間外にもかかわらず多くの学生が参加し、会場は満席となる盛況ぶりとなりました。
 今回は、昨年12月にご出版された著書と同名、"いい経営者は「いい経営」ができるのか"をテーマにご講演いただきました。
 これまで経営者として様々な企業の経営に携わられてきたご経験を踏まえ、企業の変革に取り組む中で見出したセオリー、そしてご自身の経営に対する考えに至るまで、多岐にわたる内容についてお話しいただきました。


【"プロ経営者"を目指す中で芽生えた、「いい経営者とは何か?」という問い】

 高家社長は、1990年代に米IBMの経営を再建したルイス・ガースナー氏に影響を受け、いわゆる"プロ経営者"としてのキャリアを目指されました。その後、ミスミ(現ミスミグループ本社)、カインズの社長を歴任し、2021年にカインズがM&Aした東急ハンズ(現ハンズ)では会長として変革を実現されてきました。これらのご経歴からは、まさに経営者としての実績を積み重ねてこられたように見受けられますが、その過程でご自身は、"プロ経営者"という枠組みにとどまらず、「いい経営者とは何か」という問いに向き合うようになったといいます。

 まず前提として、経営者にとって結果を出すことは必要条件であり、業績を上げられない経営者はその役割を果たしているとは言えません。その上で高家社長は、変化の激しい現代において企業が競争の中で持続的に成長していくためには変革が不可欠であるとした上で、"いい経営者とは、「戦時に追い込まれてからでなく、平時においても変革を実行し、結果を出し続けることができる存在」である"と述べられました。

 一方で、こうした変革を実現していく過程で、新たなジレンマの存在に気づかれたといいます。経営者のリーダーシップが強いほど、「リーダーの指示に従っていればよい」という安心感が組織内に生まれ、社員が自ら考えることをやめてしまう状態に陥ります。その結果、本来向き合うべき顧客や市場ではなく、経営者の意向を過度に意識するようになり、いわゆる忖度が生じることで、組織全体の思考が内向きになってしまいます。さらに、経営者自身も誤り得る存在であるにもかかわらず、その判断に対して十分な検証がなされないまま、意思決定が進んでしまうリスクも孕んでいます。このように、優れたリーダーシップによって成果を上げることが、かえって組織の自律性を損ない、変革の持続を阻害してしまうという自己矛盾に直面されてきました。


【「いい経営」の主体は経営者ではなく組織】

 高家社長はご自身の経験を通じて、「いい経営」とは単に優れた経営者が成果を出し続けることではなく、"変化を持続させる経営である"と捉えるに至ったといいます。そしてそれは、「いい経営者」の力に依存する状態を超え、組織として自律的に変化し続ける状態へと移行していくことを意味します。すなわち、「いい経営」を実現するためには、最終的に経営者個人の存在感が相対的に小さくなり、組織そのものが変革を担う主体へと変わっていくことが求められます。そして、このような会社を創ることこそが、理想の経営であると述べられました。

 この持続的な変革の主役となるのが、自律的なリーダーの存在です。高家社長は、自律したリーダーとは「自分で考え、意思決定できる人」であり、これこそがリーダーにとって最も重要な資質であると述べられています。ビジネスにおける意思決定には唯一の正解が存在するわけではなく、複数の要素が複雑に絡み合う中で、自らの判断によって最適と思われる解を選び取っていくことが求められるといいます。
 そして、このような意思決定の重要性は、組織のトップである経営者において強く求められます。経営に明確な正解が存在するのであれば、そもそも経営者という役割は必要ありません。現実の経営は、様々な要素が複雑に絡み合う中で、複数の解が併存する状況に置かれており、その中から自らの判断によって意思決定を行うことこそが、経営者に求められる本質的な役割であると述べられました。


【自らの「正しさ」と向き合う】

 絶対的な解のない状況において、経営者は常に「正しい」判断を迫られます。その意思決定の拠りどころは、経営者自身の考える「正しさ」にあるのではないかと高家社長は述べられました。
 では、その「正しさ」はどこにあるのでしょうか。それは外部から与えられるものではなく、日々の意思決定や困難な局面に向き合う中で、自身の行動や価値観を省みる、すなわち内省を重ねることによって形づくられていくものだといいます。

 高家社長は、15年以上にわたる経営トップとしての経験の中で、「いい経営者」とは何か、そして自らはいかに意思決定すべきかを問い続けてきたといいます。
 企業理念やパーパスといった指針が存在したとしても、それを具体的な状況にどのように適用するかは、最終的には経営者自身の判断に委ねられます。あらゆる知識や経験をもとに思考を尽くし、周囲の意見も踏まえて検討を重ねたとしても、最後に決断を下すのは自分自身であるといいます。
 そしてその決断には、正解が存在しない以上、常に不安や迷いが伴い、「本当にこれでよかったのか」と自問し続けることから逃れることはできません。そのような葛藤と向き合いながら意思決定を重ねていくことこそが経営者の本質であり、その最終的な拠りどころとなるのは、これまで培ってきた自分なりの「正しさ」であると述べられました。


 KBSでの学びを振り返ると、経営理論やフレームワークを用い、論理的に思考することで、意思決定を行うための訓練を重ねてきました。しかし、卒業後に身を置く実務の世界においては、必ずしも一つの「正解」が存在するわけではなく、何が正しいのかは立場や状況によって揺らぎ得るものです。本講演を通じて、このような状況において求められるのは、外部にある基準に依拠するだけではなく、自らの価値観に基づき、その決断の責任を引き受ける覚悟であると理解しました。
 高家社長が示された、"自らの「正しさ」と向き合い続ける"という在り方は、これから意思決定を担っていく私たちに対し、その責任を引き受ける覚悟を問うと同時に、自らの判断を信じ前に進むことを後押しするメッセージであると感じました。

MBA2年(M47)勝又織瑛

ナビゲーションの始まり