2026年05月18日
2026年2月28日~3月8日までの期間、EMBA11期生による「海外フィールドB」が開催されました。本科目では、環境分析と事業機会に関して綿密な事前研究を行い、事業仮説を構築した上で、インドでの見聞・体験を通じて、現地市場ニーズやビジネス展開、社会問題の解決の可能性を探求しました。
参加者は4チームに分かれ、インドの企業、非営利組織、産業振興団体・省庁等(JETRO, Bengaluru・在ベンガルール日本国総領事館・INDO NISSIN FOODS PVT. LTD.など)を訪問し、意見交換を行いました。労働年齢人口の比率が高く豊富な若年労働力を抱え、市場の地域差や都市部での中間層拡大といったインド特有の人口動態を踏まえ、現地企業の人材活用や消費変容、地方創生に向けた政策・支援の実情を確認しました。
また、現地トップビジネススクールIIMBでの経済・経営関連の教員との意見交換・議論を通じ、労働市場の構造変化やデジタル化・製造業振興といった経済トレンドを背景に、事前に考察したビジネスモデル等の妥当性を検証し、その成果を発表しました。

インドでのフィールドワークを通じ、当初の「高級サロンでの毛髪回収」という計画は、インドの文化・産業構造に即した「循環型モデル」へと劇的に進化しました。
現地調査では、ヒンドゥー教寺院の寄付文化や、ウィッグ製造過程で全供給量の約40%にものぼる「規格外廃棄毛」が発生している実態を把握しました。この膨大な未利用資源を「ヒト由来ケラチン」へとアップサイクルする戦略こそが、調達の安定性とコスト競争力を両立させる鍵であると確信しました。また、美しく長い髪を尊ぶ南インドの女性1.45億人をターゲットに据え、現地での対話を通じてヒト由来成分への高い受容性を肌で感じることができました。大学との技術連携や規制対応の目途も立ち、現地の生活習慣に深く潜り込むことで、リープフロッグ(跳躍的発展)を遂げるインド市場に真に根ざしたビジネスの勝機を具体化できたことが、実現に向けた最大の収穫となりました。

日本酒が各国へ輸出される中、インドへの輸出額は2,200万円(2024年)とまだまだ少額。今後数年で5倍以上輸出額が増えると予想される中、日本酒に関連したビジネスモデルの検討を行いました。チームとして、インド料理・アジア料理と日本酒によるペアリングを考え、AIモデルをベースとしてペアリングシステムをレストラン各社へ持参し、プレゼンテーションを実施しました。事前にインド進出を検討されている酒蔵へのヒアリングを実施し、ペアリングを通じて日本酒をより多くの方々に体験いただくことを想定し、ビジネスモデルについて議論しました。特に日本酒は温度管理が難しい飲料、併せてロジスティックの分析も行いました。
現地調査で、実際に現地レストランを訪問し議論した他、インド最大手のビール工場なども見学しました。どのようなルートでアルコール飲料がマーケットに展開されるかを深く理解できました。現地ヒアリングの中でインディカ米の供給過多、農家の低収入、未活用の副産物に着目しました。日本酒の認知は非常に低く輸入プレミアムのみでの普及は難しい一方、都市部では体験志向が伸長しているため、「体験型地産地消モデル」を検討しました。このモデルは都市の体験拠点で認知と需要を育てつつ現地生産へ移行し、余剰米を原料化して農家の収入向上と付加価値創出を図るというものです。
短期的には体験拠点による市場教育、並行して現地生産クラスター整備でコスト・規制対応を進め、加工過程での副産物アップサイクルによる食品ロス削減と新たな収益源確立を目指すことを検討しました。州別規制やインフラ制約には、業界と政府が連携した非市場戦略の設計・実行が必要であると強く実感しました。
文化共創による地場資源の経済化は地方経済の構造転換を促す可能性が高く、課題は依然多いものの、実現に向けた具体的な道筋が見えており、ぜひ実現させたいという期待が持てました。

Cチームでは、日本の経営層・高度専門職など、日々高いパフォーマンスを求められる人々に向けて、インドでの本格的なリトリートと日本での継続的なケアを組み合わせた「Genesys Retreat」を構想し、現地検証を行いました。日本では、働き盛りの世代ほど疲労や不調を後回しにしやすく、健康への投資も分散しがちです。一方で、インドはアーユルヴェーダやヨガをはじめとする伝統的なウェルネスの蓄積を持ちながら、日本人にとっては依然としてビジネス渡航先の印象が強く、ウェルネス目的での可能性は十分に開拓されていません。
現地調査では、現地のウェルネス市場や医療機関など多角的な視察を行う中で、想定パートナーの一つとしてSOUKYAを訪問し、実際に滞在しました。訪問前は、伝統的なウェルネスや高級施設としての機能面に注目していましたが、滞在を通じて強く感じたのは、価値の本質は施術や設備単体ではなく、自然環境、食事、静けさ、スタッフの所作、時間の流れまで含めた一貫した体験設計にあるということでした。加えて、専門家による体系的なアプローチのもとで生活リズムや食事、過ごし方が統合的に設計されていることにより、自身の心身の状態を客観的に捉え直す感覚が得られ、「インドで大きくリセットする」という仮説を実体験として裏付けることができました。
これらを踏まえ、Genesys Retreatは、インドでの集中的なリトリートによる変化を起点に、日本でのフォローや日常的なケアを組み合わせることで、その状態を習慣として定着させるモデルとして具体化しました。インドでの変化と日本での継続を一体として設計するという当初の構想について、現地体験を通じてその有効性と必要性の双方を確認することができました。また、現地施設との連携やトレーサビリティ確保を通じて、インドの伝統や地域産業の価値を守りながら還元する構想としています。今回の検証を通じて、日本とインド双方に価値をもたらすモデルの可能性を具体化することができました。

現地調査を通じ、当初検討していたインドのハーブを原料とした入浴剤の提供は、日本市場での実需に基づく「パーソナライズ型リラクゼーションモデル」へと進化しました。
インドではアーユルヴェーダの体系的知見と安定したハーブ供給基盤を確認し、日本では入浴文化や「整い」需要の高まりから高い市場適合性を見出しました。これらを踏まえ、入浴剤と蒸し療法を軸に、ドーシャ診断によるパーソナライズと継続利用を促すD2Cモデルを設計しました。さらに、売上の一部をインド農村女性へ還元する循環型モデルを組み込み、事業性と社会性の両立を図る具体的な道筋を描くことができました。また、規制面や品質担保の論点も整理し、実装に向けた現実的な前提条件を明確化することができました。

今回、事前研究に基づく事業仮説の現地調査を通じて、4チームがそれぞれの社会課題に向き合い検証を行いました。インドの急速なデジタル化、都市部での中間所得層の拡大、農村部における生産性向上ニーズといった経済状況を踏まえ、チームは地方と都市をつなぐバリューチェーン構築やローカル資源の価値最大化に注力しました。
これらの取り組みは、持続可能性と社会的インパクトを両立させうる現実的なビジネスプランの構築につながる実践的な学びとなりました。提案された各プランは単なる利潤追求にとどまらず、現地の課題に根ざした共創型の事業設計を志向しており、新興国市場における課題解決型ビジネスの展開を促進することが期待されます。

現地で通訳いただきました中村智氏、およびインド国内の訪問先の調整およびサポートいただきましたスタッフの皆様方に、この場をお借りして御礼申し上げます。
E11 奥山理沙および海外フィールドB各チームリーダー
