高岡 本州 氏

KBSで作った「知識の棚」が事業のベースに


高岡 本州 | 株式会社エアウィーヴ 代表取締役会長兼社長
1983年名古屋大学工学部応用物理学科卒業。85年慶應義塾大学大学院経営管理研究科で修士号を取得後、日本高圧電気に入社。87年スタンフォード大学大学院経済システム工学科修士課程修了。98年日本高圧電気社長に就任(現:取締役)。2004年中部化学機械製作所(現エアウィーヴ)を伯父から引き継ぐ。17年から現職。起業家表彰制度「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2016ジャパン」日本代表に選出。18年より「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー ジャパン」審査委員を務める。

KBSでは臆することなく人と話す。それが突破口に

私は名古屋大学の工学部に在籍していたのですが、勉強そっちのけでゴルフをやっている学生でした。大学卒業後は、大学院に進学するとか留学するという道もあったのですが、どうもピンとこなかった。気持ちのどこかでビジネスの勉強をしたいという思いがありました。当時、ある人からビジネスを勉強するなら日本語でしたほうが微妙な感覚が分かると言われ、探していた中で、慶應にビジネススクールがあることを知り、「もうここだ」と迷いなく決めました。

高岡 本州 氏

当時、学年70名のうち10名位が新卒でした。ケースメソッド中心の授業で、ビジネス経験がなく、何も知らないのですから臆してもしょうがないと思っていました。ただ、衝撃的だったのは、言葉が分からなかったこと。他の学生が販管費などと言っているのを聞いて、それは何だと思いました。このままではいつまでたっても分らないと思い、グループワークの時にはどんどん話すようにしました。どこかで誰かが教えてくれるだろうと期待して。そのうちに、ゼミで先輩たちと仲良くなり、彼らがあれこれ教えてくれるようになりました。逆に会計学やディシジョンサイエンスのような分野になると、私は理系なので理解できる。それで今度は、先輩が私にききにくるようになったんです。こうして私は先生からも同級生からも学びを得ました。

ゼロからきれいな棚を作る。それが知識の源泉になる

私はビジネススクールにいつ行ったらいいかと人に聞かれると、すぐに行けばいいと言います。なぜなら、これは私の持論ですが、ビジネススクールは過去のビジネスを整理して「知識の棚」を創るようなものだと思っているからです。新卒でビジネススクールに行くと、バイアスがないぶん、その棚がきれいに作れると思います。例えば、販売の経験がある人の場合は、「販売の棚」が異常に大きくなってしまいます。マーケティングばかりしている会社の人はマーケティングの棚は大きくなるけれど、ブランディングについては棚が小さいまま。ところが、私はゼロでしたからKBSのようにきちんと教えてくれると、棚がきれいにできるんです。エアウィーヴを始めたときに、KBSの教育はよかったとよく分かりました。KBSのように熟練した先生と質の高い教材で学べるのは、精緻な「知識の棚」を作ることにとても役立つと思います。エアウィーヴを始めた時、私はマーケティングもブランディングも分かっていませんでした。そのため、いろいろな人に話を聞き、その話をKBSで作り上げた棚の中に整理して詰め込んでいきました。そうするうちに自分でクリエイトできるようになったのです。KBSで学んだことは知識の源泉だと、私は思っています。

エアウィーヴ創業へ シーズとニーズを結び付ける

私はKBSを修了後、父が経営していた日本高圧電気に入社し、今度はスタンフォード大学大学院に2年間留学しました。そして10年後の1998年、日本高圧電気の社長になり、2004年には、当時大きな赤字を抱えていた中部化学機械製作所という伯父の会社を引き受けることになりました。この会社には糸状のポリエチレン樹脂を絡めたクッション材をつくる技術がありましたが、何しろ倒産寸前でした。当初の2年ほどは従来通りBtoBでクッション材を売ろうと考えたのですが、思い切って寝具にしてみては、と思いつき、マットレスパッド「エアウィーヴ」を開発、2007年からBtoCで売り出しました。KBSにいた時、たまたま寝具業界の話を聞いたことがあったので、ある程度はこの業界を理解していました。その時、寝具はロジスティックスのビジネスだといわれた記憶があります。製品の価格に比べて輸送費が占める割合が大きいというわけです。そこで、われわれは小型のパッドから始めようと決めました。大型のベッドマットレスは物流がネックになりますが、軽量小型なパッドなら物流網に乗りますからね。

高岡 本州 氏

私は、エンジニアリングのバックグラウンドがあったので、このクッション材の技術は寝具に使えると見ただけで分かりました。人から聞いたことを棚の中に入れておくことによって、後々、自分のものとして使えるようになると言いましたが、要は、現場には出ていなくても、経験をより一般化して活用できるようになるということです。これはエリート教育の良さだと思っています。エリート教育を受けておくと、後になって、現場で教育を受けた人たちの棚からも吸収することができるんです。

寝具業界にも徐々に変化が

寝具は新規参入が非常に難しいマーケットです。なにしろ、寝具は10年に1回くらいしか買わないものですから、購入サイクルが非常に長い商品です。さらに、眠りは1日1回だけです。飲み物なら同時に他のものが飲めるので比べられますが、寝具はそういうわけにはいきません。それに毎日違った状況で寝ますから、眠りの質に寝具がどう影響しているか、本人には分かりません。つまり、寝具の価値と使用者が寝具に対して感じる価値は評価できないのです。そうした業界では、一度シェアを取ってしまうとそれで勝ったことになってしまいます。するとイノベーションが起きなくなります。われわれはそうした業界に参入し、少しずつですが変化を起こし続けています。

事業を永続的にするために、徐々にマーケットを広げながら商品の幅を広げてきました。また、商品には機能がありますから、その機能を少しずつ進化させてきました。商品ラインを増やしながら価格帯も広げていったわけです。商品は購入していただく消費者の認知のスピードに合わせて一緒に増やしていかなければいけません。認知されないうちに種類を増やしてしまうとお客様は混乱して買わなくなります。これらのこともKBSで学びましたね。

在学生、修了生に向けて 新規事業を立ち上げるなら 

事業を起こすなら、志を持ってまずは目の前にあることをきちんとやっていくことです。結局、こつこつやったことが役に立ちます。私は新規事業をやることが立派なことだと思っているわけではありません。ただ、やる機会があったときに、やれるだけの力は蓄えておくことが重要だと思っています。もうひとつ、知恵は友人や周りの人からもらえます。だからこそ、仲間を大切にし、義理を果たしておくことです。



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