左 榎本 慧太 君(写真左)・大野 正稔 君(写真右)

中古スマホの新ビジネス立ち上げから伊藤忠グループへの事業継承へ


榎本 慧太(写真左) | 株式会社Belong
1986年生まれ。防衛大学校卒。さまざまなキャリアを経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科に進学( 2018 年修了、M39)。修了後の2018年5月、株式会社ジュヨウを立ち上げ、代表取締役に就任。2020年10月、事業の契約継承という形で株式会社Belongに入社。現在はマネージャーとして主に事業開発に携わる。


大野 正稔(写真右) | 株式会社Belong
1987年生まれ。慶應義塾大学卒。約5年の実務経験後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科へ(2018年修了、M39)。修了後、株式会社ジュヨウを同級生の榎本慧太君と共に創業。2020年10月、事業を契約継承した株式会社Belongに入社。中古スマホECサイト「にこスマ」のプロダクトマネジメントなどに従事。

M39の同級生である榎本君と大野君。「誰もが簡単に中古スマホをトラブルなく買える仕組みを作る」ため修了後、二人は新たなビジネスを立ち上げ、その事業は伊藤忠商事グループ、株式会社Belongへ契約継承されました。
新たなステージで事業を発展させるお二人にお話を伺いました。


中古スマホが突然使えなくなった経験から

──現在、お二人は伊藤忠商事グループの株式会社Belongで事業責任者として活躍されています。もともと、お二人はKBS修了後に「株式会社ジュヨウ」を立ち上げ、そこで中古スマホの新ビジネスを起こしました。今もその延長線にある事業に携わられていますが、なぜ中古スマホの事業を始めようと考えたのでしょうか。

榎本 KBSに入学する前、社会人時代に、中古スマホを購入した経験がきっかけです。ネットオークションで中古のiPhoneを購入したのですが、しばらくしたら突然使えなくなったのです。しかも出張中で、とても困りました。なぜ使えなくなったのか原因を調べると、以前の所有者が端末代金の分割払いを終えておらず、僕が使い始めた後からネットワーク利用に制限がかかってしまったことが理由でした。中古スマホを購入するときは、ネットワーク利用制限の有無やキャリアが限定されるSIM ロックの有無を確認する必要があったのですが、そのことを知らなかったのです。
 ただ、その仕組みが面白いなとも思いました。中古スマホの価格は状態の良さだけでは決まらない。その複雑さや難しさを知り、「それなら誰でも気軽に中古スマホをトラブルなく買える仕組みを作れないか」と考えたのです。KBSに入学したのはこのアイデアを実現するためでもありました。

大野 当時の中古スマホは、例えば秋葉原にあるようなマニアックなお店で扱っているようなものでした。中古パソコンを売買していたお店が「ついでにスマホも扱う」という状態で、知識がある物好きな人が購入するというニッチな市場。店の価格の付け方も「隣のお店が1万円で販売しているからウチも1万円で販売しよう」という感じでした。
 榎本のやり方が画期的だったのは、Pythonを用いて、ネット上にある中古スマホの取引価格データを自動的に集めてデータベースを作り、機種別に価格相場を算出できるようにしたことです。榎本はこれに在学中から取り組み始め、その価格データベースを企業に販売していました。

──榎本さんは入学前からプログラミングの経験はあったのでしょうか。

榎本 いいえ、まったくありませんでした。所属した林高樹先生の研究室にはプログラミングができる環境があり、修士論文を書くにあたり、必要に迫られ「もうやるしかない」ということで取り組みました。私が取り組んでいたのは中古スマホの価格決定要因の研究でした。ネット上の個人間取引、CtoCプラットホームから価格決定の材料を自動収集する仕組みを作り、データベースを構築していく。これが付加価値を生みました。二人で起業したとき、これが最初の経営リソースになり、今所属しているBelongから「面白いことをやっていますね」と声をかけられたのも、これがポイントでした。

中古スマホの相場がわかるWebメディアで事業展開

──最初はどのようなビジネスモデルだったのですか。

大野 中古スマホを売買しているリユース企業に、そのデータベースを販売していました。これがあれば買い取りや販売の金額を自動的に決定することができます。最初に取り組んだのは、インターネット上で相場価格を知ることができる「スマホの相場ドットコム」というWebメディアを作ることでした。中古スマホがどこのプラットホームでいくらで買えるかを機種ごとに知ることができるもので、将来の自社BtoCサービスの集客源にしようと考えていましたが、結果としてメディアをもつことで企業間取引、BtoBで売り込むときに「私たちはこんなデータを持っています」と伝えやすくなりました。また、価格データベースを買取価格の自動算出に活用し、スマホ販売事業者様向けにすぐに手間なく買取サービスを開始できるプロダクト、「キシュヘンドリックス」というスマホ買取サービスも立ち上げました。

榎本 中古スマホ事業は、端末の買取ができないと基本的に売るものがありません。いかに買取をするかが大きなポイントなのです。我々は「キシュヘンドリックス」をスマホ販売事業者様に提案して、「この機能を御社のウェブサイトに付加すると、実質負担が安く見えて購入率が上がりますよ。スクリプトを1行加えるだけです」などと営業していたのです。新しいスマホが欲しいユーザーさんが販売サイトを訪れたとき、クリックするとポップアップ画面が開き、いくつかボタンを押すと不要になる手元のスマホがいくらなのか相場がわかるのです。事業者様は買取金額の提示によりお得な買い物を提案できる。お客様は古い端末を手放して、同時に新しい端末をお得に買える。我々は集客コストなく端末の買取ができる。三者にメリットのあるサービスになるわけです。

大野 「キシュヘンドリックス」はスタートして早い時期に、格安SIM事業者様などに採用していただきました。なのでデータ販売含め主に事業者様向けに取引をしていましたが、実は、その取引いただいた事業者様の中にBelongもあって、実際に使ってもらったところ「こんなに良いデータベースがあるんだったら一緒に事業をやりませんか」と言っていただいて、それで事業を譲渡し、Belongと一緒になることになりました。

──創業した会社にこだわりのようなものはなかったのですか。

榎本 僕たちは会社を大きくしたいと思っていたわけではなくて、「社会に実装できる」と考えたものが本当に現実化するかどうかを確かめたかった。その思いのほうが強かったのです。
 それに、データの販売だけでは売り上げがあまり大きくならないので、スマホの端末を集めて販売したかったのですが、いかに多く端末を集めるかが大きな課題となっていました。我々のサービスを利用して簡単に買取サービスを提案できます、と携帯販売会社に営業をしていたのですが、その頃から新型コロナウイルスも流行りだし、思うように営業ができませんでした。そんな中、声をかけてくれたBelong は伊藤忠商事グループで、中古スマホを仕入れられるルートを持っていました。世界には中古スマホが多く集まる市場があって、伊藤忠商事ならそこで確かな商品を買い付けることができます。

大野 我々がこれから積み上げようとしていたリソースをBelongは持っていました。このリソースと榎本がずっと作ってきたデータベースとが一緒になれば、より付加価値の高い状態になる。両社が一緒になったほうが、榎本と私がやりたかったことを早く社会に実装できると思いました。


KBS 委員長杯での経験で「絶対に実装してみせる」

──お二人で起業しようと思ったのはなぜですか。

大野 KBSで学ぶ人は、さまざまな目的を持っています。大企業から経営を学びに来る人もいれば、キャリアアップをしたいという人もいる。その中で私たちは「スタートアップしたい」クラスタだったのです。目的が似ているので、必然的に同じ授業を受けるようになっていき、その授業の中で発表し合っていくので、だんだんと仲間意識みたいなものが生まれていきました。

榎本 僕は中古スマホのビジネスプランをすでに持っていたので、発表などがあるたびにずっとその可能性を訴え続けていました。心の中で「2年間伝えて誰も面白いと言ってくれなかったら実現化は無理だろう」と思っていて、執拗にプレゼンしていたら、大野が興味をもってくれました。一人でスタートアップするのは難しいと思っていましたが、大野と一緒ならできると思いました。

大野 KBS は学生にさまざまな選択肢を提示してくれます。私はKBSで学ぶうちに「起業したい」と思うようになっていきました。多くの先生から提示された大企業からスタートアップまでの幅広いケースに、さまざまな角度から触れる中で、「やっぱり起業したいな」という気持ちが醸成されていきました。榎本とは、いつも中古スマホの事業プランの話をしていました。それを聞いて「面白いな」と思い、市場が成長していく確かな魅力も感じていました。私は山本晶先生の研究室で、プラットホームビジネスはレイヤー構造で、市場変化が生じるのはベースのレイヤーにイノベーションが起きたときだということを学んでいました。メルカリが流行ったのも、スマホが進化し誰でも売りたいものの写真を綺麗に撮れるようになったり、簡単に出品できるようになったりしたから。ベースのレイヤーが変わったから、その上のアプリが変移してゲームチェンジが起きた。一方でスマホの進化が止まってきているのも感じました。そのような勉強をしていたので、榎本の話すことが「面白い」と感じられました。またリユース市場が大きく注目され始めていた頃で、携帯電話に関わる法律や国の政策も変わろうとしているタイミングでもありました。
 そんな榎本が私をパートナーにしたのは、授業のグループワークでよく一緒に組んでいたから。仕事をしているような疑似体験を何度もできて、そのときに違和感が一番ないと思ってくれたんですかね。

榎本 いつからか、授業が終わるといつも一緒に自習室でワークの準備などをするようになりました。それで、ビジネスプランコンテスト「KBS委員長杯」にも挑もうとなって、二人で発表することにしました。

──結果はいかがでしたか。

大野 残念ながら受賞はできませんでした。この悔しい経験も起業したことに影響があります。審査員から「事業として成り立つのは早いと思うけれど、社会実装にまで至るだろうか。たぶんスケールしない」と言われたのです。"そんなことはない"と思いつつも、ロジックとしては成り立つけど、社会で実装はしていないので、反論できませんでした。本当に悔しかったし、ゼロからイチを生み出す「0→1」への思いが一層強まり、プランをさらに磨いていきました。

学位授与式の次の日から起業の準備を始めた

──それから起業へと動き始めたのですね。

榎本 修了が近づいてきた時期に大野と二人で話をしたことがあり、そのときに「修了したら自分で事業をやりたい」と話しました。そうしたら大野が「一緒にやってもいい」と言ってくれたのです。それで学位授与式の次の日から二人で起業の準備を始めました。

大野 役割としては、榎本は付加価値の基幹となるデータベース構築に加え、ゼロからプロダクト開発まで行い、私はそれ以外の部分、買取/ 販売業務や経理などのバックオフィス業務などを担当することになりました。

榎本 「0→ 1」を身をもって経験でき、起業して良かったと思います。自ら立ち上げた会社をEXITすることができた。この実績は大きな自信になっています。

大野 起業という言葉が自分の中で勝手に独り歩きし、それまで持っていた「自分は起業経験がない」という変なコンプレックスが、実際に起業をしてみて、なくなった感覚はあります。初めて一人で海外旅行に行くのに似ているかもしれません。一歩踏み出す大切さを感じています。

──今後の展望を教えてください。

大野 このBelongには、私たちにはなかったものがたくさんあります。端末を十分調達できるし、検査する人員もしっかりそろっている。Belongのリソースと榎本のデータベースが一緒になって生み出す付加価値はやはり大きくて、これをさらに大きくしていきたいと思っています。

榎本 普通に就職していたら、最初からマネジメントの仕事などさせてもらえないと思いますが、僕たちの場合は、アサインされたポジションで、マネジメントに関わらせてもらっています。この中古スマホ事業とBelongという会社をどこまで大きくできるか。それを今楽しんでやることができていると強く感じます。

大野 メンバーが増えてきているので、組織マネジメントの観点も多くなってきました。よく「これはKBSのあの授業で勉強したところだな」と思うことがあります。起業したときはスタートアップ系の授業で学んだことが活きましたが、今は基礎科目で学んだことがいろいろと活きています。

榎本 KBSでは広い範囲を学ぶことができました。何かあったときは、そのときに得た知識の引き出しをいろいろと開けると、たいてい何か出てくる。これから、さらに学んだことが役立つと思っています。

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