2024年9月27日
2024年8月1日から8日までの7日間、劉慶紅ゼミでは、劉教授の引率の元、中国の上海と北京で海外合宿を実施しました(劉ゼミM46ゼミ学生全員参加)。今回の合宿の目的は、世界第二位の経済大国となった中国の現状に触れながら、欧米や日本とも異なる中国独自の社会環境や企業文化を理解し、グローバルなビジネス人材となるために必要な視野を獲得することです。
そのため今回は、上海と北京で4名の中国人経営者と面談し、インタビューを行いました。「金属廃棄物の再利用時に使用する薬剤の製造・販売事業を興した夏潼社長」、「資金繰りが厳しい中小製造企業向けに、在庫を担保とする手法の金融業を興した姜永芳社長」、「B to Bのプラスチック部品製造業を興し、海外展開もこなす余斌紅社長」、「日中をフィールドとする鉄鋼商社を興した林青社長」の4名です。そのうち余斌紅社長は、復旦大学MBAの修了者でした。
事業の創業者ばかりだったので、それぞれ起業した動機を尋ねたところ、「貧困層になりたくなかった」との同じ回答が返って来ました。日本よりも人口も多く、競争も激しいうえに、経済格差が大きい中国社会においては、貧困層からの脱出という、あからさまな動機が起業の理由となっており、そのハングリーさが、ビジネスにおける鬼気迫るシビアさにつながっていると感じました。
日本や欧米と異なり、中国は共産主義国家であり、市場や企業経営に対する国の介入の度合いが異なります。企業が成長して株式上場すると、国から株式買収の提案がなされ、それに応じると国営企業になります。これは日本では考えられないことであり、中国の企業経営者にとっては、国営企業となるか否かという経営上の意思決定の必要があります。国営企業となれば、経営に対して国の介入を受けることになりますが、国が株主となることで、企業の存続に関するメリットもあります。
また中国でのビジネス界では、「分久必合、合久必分(分かること久しければ必ず合し、合すること久しければ必ず分かる)」という格言があります。流行の移り変わりは激しく、事業には栄枯盛衰があるので、子息に同じ事業を継がせるのはナンセンスだという考えです。これは何代にもわたって事業を承継する企業が多い日本との大きな違いであり、統治者の移り変わりが激しい中国特有の歴史的背景を強く感じました。ある経営者が語った、「子供の時代にはこの事業は成り立たないだろう。モノやカネを残しても政府に渡すことになるので、むしろ時代の潮流を読む力や、執念や不屈の精神といった経営者としての姿勢や思想を継承させたい」という言葉が印象的でした。
中国を旅行するなかで、印象的であったのは、電車やバスなどの公共交通機関の運賃の安さです。タクシーも日本の5分の1ほどの運賃でした。また電子マネー決済の普及が徹底されており、今回の旅行では一度も現金での支払いはしませんでした。小さな路地の露天商までQRコードの機器を備えていました。今回実際に渡航することで中国の現状に触れることができました。また真のグローバル人材となるためには教養が必須ですが、今回、北京の紫禁城、万里の長城、上海の外灘なども見学し、中国の悠久の歴史と文化に対する理解を深めることができました。
これまでの経営学は、欧米の市場を前提としたものですが、欧米と全く異なる社会体制や文化を有する中国では通用しないことがわかりました。劉教授は、市場戦略と非市場戦略の統合を目指す統合戦略論を提唱しておられますが、例えば、国営企業となるか否かの選択を迫られる、中国の経営者にとっては、非市場戦略が極めて重要であることを実感し、さらには、あらゆる企業の経営者にとって、事業を展開する環境に応じた統合戦略が重要であることを理解しました。
日中関係は、「政冷経熱」の時代から、「政冷経冷」とも言うべき時代に入り、さらには現在、混迷する国際情勢のもとで、政治経済に関する国際的なValue Chainのダイナミックな再構築が進んでいます。こうした状況下で、日本にとって、隣国の超大国であり、しかも未知の国である中国の現状を見聞できたことには、大きな意味があります。中国で日本人が襲われたたり、スパイとして逮捕されたりする事案が相次いでいるなかで、特段の危険も感じることなく、無事に合宿を終えることができたのは、ひとえに劉先生のおかげであり、参加したゼミ生一同感謝しています。細心の注意で、あらゆるリスクを事前にヘッジして、周到に今回の計画を立てていただいたことは、実務家としてのご経験を有する劉先生ならではのことで、さらには、偶然上海を訪れていたKBSの他ゼミ生や、上海在住のKBS卒業生も急遽招いて懇親の場を設ける配慮をしていただきました。理論のみならず、実践面においても、グローバル人材としての大切な姿勢を学ばせていただきました。参加したメンバーは、国内の学習では得ることのできない貴重な知見を、まずは修士論文に還元し、さらには今後のビジネスマン人生の糧としたいと思います。
劉ゼミ M46 ゼミ生一同