2024年9月12日
現場には、ビジネススクールで学ぶ"正解"とは異なる世界が広がっていた―。
2024年8月20日、M46期(現修士2年)とM47期(現修士1年)の有志で、埼玉県所沢市に本社を置く、所沢軽合金株式会社(以下、所沢軽合金)を訪問しました。
訪問経緯は、KBS開講科目で一つの企業について深い分析と考察を行う「集中企業研究」で23年度の題材企業となった、自動車部品メーカー・タマチ工業の米内淨社長より「当社の取引先である所沢軽合金について学ぶことで、より業界理解を深めるのはどうか」とご提案を頂き実現しました。
所沢軽合金は、自動車や航空機関係などの部品の試作品メーカー。従業員は116人の中小企業ながら、その技術力の高さから、日系大手自動車メーカーからグローバル外資企業までの試作品受注を請け負います。
訪問では、まず隣接する工場で現場視察を行いました。取引先から預かった設計図から、試作品が完成するまでの全ての工程を見学。約700℃にまで熱せられたアルミニウムが砂型に流し込まれる工程(以下、写真。アルミニウムが手作業で流し込まれた後の砂型)や、それを流し込む砂型製作工程などは、熟練作業員による"技術の結晶"でした。
一般論で言えば、KBSをはじめ多くのビジネススクールで学ぶ製造業の企業経営は、規模を拡大し、購買力強化やコストダウンを実現することで、安価で大量生産を行うというもの。しかし所沢軽合金は、試作品メーカーという特質上、この論理は通用しないのです。
今回の訪問に参加し、近い将来、家業である自動車部品メーカー・増田製作所を事業承継予定のM47期の増田展暁さんは、「自動車や航空機関係の試作品メーカーと聞くと、技術の最先端という観点から、最新設備が揃い、高度に機械化された工場を想像していた。しかし、現場では、工程の多くがアナログかつ人力で行われていることが大変興味深かった。」と振り返ります。
所沢軽合金の横田明彦営業部主任は、「当社では、多くの工程が"人の手"で行われている。仮に、大規模な機械化を進めたとしても、試作品メーカーという少量多品種の特質上、プログラムを組んだりする時間やコストが余計にかかってしまい現実的ではない。」と明かします。
現場視察に加えて、ディスカッションでは、所沢軽合金の災害時や緊急時のBCP(事業継続計画)に、一同驚愕しました。というのも、本社工場に加えて、山形県にも工場があり、その2つの工場では、全ての工程や設備が"完全にコピー"されているというのです。つまり、仮に本社工場が災害で使用不能となってしまっても、すぐに熟練工の方々は山形工場で仕事が行えるというのです。首都直下型地震など超大規模災害の発生が想定される中、所沢軽合金の"万が一"の体制構築には、大手企業も見習うべき点があると感じました。
一方、慢性的な人手不足という製造業の課題にも悩まされています。前出の横田主任は、「若い人の採用に特に苦労している。」と吐露します。その解決策として、若年層の待遇改善に加えて、山形工場があることから縁のあるプロサッカーチームのモンテディオ山形のチームマスコット「ディーオ」のスポンサーを務めることで、「若年層への認知度向上や人材獲得に努めている。」(同)と明かします。製造業企業と、地方創生やスポーツビジネスとの関係性も垣間見ることができました。
今回の訪問に際し、日吉を飛び出し製造現場を自らの足で歩くことで、教室での正解に捕らわれない"リアルな学び"を得ることが出来ました。
M46期 山本 興陽