2025年02月19日

【EMBA】1月経営者討論科目でアストラゼネカ株式会社 堀井貴史代表取締役社⾧にご登壇いただきました

2025年1月17日(金)、アストラゼネカ株式会社 代表取締役社長 堀井貴史氏を迎え、「経営者討論B」(第8回)が開催されました。本講義では、「伝統的日本企業のグローバル化」をテーマに、日本企業が直面するグローバル課題や経営者としての意思決定の在り方についての講演が行われ、EMBA科目履修者との活発な意見交換が繰り広げられました。

英国ケンブリッジに本社を持つアストラゼネカは、売上規模約541億ドル、従業員9万人を擁するグローバル製薬企業です。堀井社長は、国内メーカーや外資系スタートアップを経て米国バージニア大学ダーデン経営大学院でMBAを取得後、武田薬品工業に入社。大型クロスボーダーM&Aや新興国の事業戦略、台湾法人社長、中近東・アフリカの地域統括会社代表などを歴任されました。そして、2022年7月に日本法人・アストラゼネカ株式会社の代表取締役社長に就任され、その翌年には売上高4,960億円を達成、日本国内市場において売上高2位(薬価ベース)の地位を確立されています。

世界各国で経営の最前線を経験してきた堀井社長ですが、その視線は今、日本の未来へと向けられています。「外から日本を見る」視点と、「海外経験を活かし、次は日本へ貢献していきたい」という想い。その両方を持ち続けながら、日本市場での成長をリードしています。

そんな堀井社長は、これまでになんと13回にわたる国境を越えた引っ越しを経験。特筆すべきは、堀井社長は、上海駐在中に管理職となり、その後日本への帰任を前提とした「駐在員」ではなく、自ら「現地契約の経営管理職」という雇用形態を選択し、スイス、シンガポール、台湾、ドバイでキャリアを重ね、現地に根ざした経営に取り組んできた点です。異なる文化や言語が入り混じる環境で、日本流を押し付けるのではなく、「文化への理解」「共通点の発見」を重視しながら、多様なチームを束ねて成果を生み出してきました。実際、サッカーを通じたコミュニケーションが現地チームとの信頼構築に役立った経験や、INSEADのEMBAにてThe Culture Mapという、ビジネスにおいて、重要な文化や価値観の違いについて学んだ経験などを共有されました。

講義では、日本企業のグローバル化における「M&Aか、自前主義か」という選択について議論が交わされました。堀井社長は、変化の激しい市場環境においては、慎重さが必ずしも成長をもたらすとは限らず、むしろ「変化しないこと自体がリスクとなることを認識すること」が企業の命運を左右すると指摘しました。M&Aは、市場変化に迅速に対応するための有効な手段の一つ。しかし、その成功は買収後の統合(PMI)の進め方次第で大きく分かれるとされます。堀井社長は、日本企業のPMIの特徴や、外国人CEOの異なるアプローチを具体例とともに紹介し、グローバル競争の最前線では、手法そのもの以上に、経営者の判断力と自分自身の価値観をしっかり持つことこそが成功の鍵を握ると強調しました。変化を先取りし、果敢に動くことが求められる時代。日本企業は今、どのような選択をすべきなのか、その本質を問い直す示唆に富んだ内容となりました。

経営者にとって、意思決定の軸とは何か。堀井社長は、キャリアを通じて「経営判断の拠り所になる価値観」を重要視してきたと語りました。「短期的な利益か、長期的な成長か」「安定を選ぶのか、挑戦するのか」「伝統の維持か、変革の推進か」。こうした決断の連続の中で、堀井社長が大切にしてきたのが「Pay Forward(自分が受けた善意を、他の誰かに渡すことで、善意の輪を広げていく)」という考え方でした。堀井社長は、多くの先輩にもらった恩を、次のビジネスリーダーや、子どもたちに渡していくことをライフワークにしています。短期的な成功よりも、次の世代さらにその先への繋げることで、より良い社会を後世に繋げていく――。この姿勢こそ、持続可能なグローバル経営の本質なのかもしれません。

講義の後半では、中東と米国の政治混乱の中「人命か、大きな企業リスクか」という経営判断をテーマとしたミニケースディスカッションが行われました。日本ではなかなか直面しない状況ですが、経営者としての意思決定の難しさを伝えるために、堀井社長が実体験をもとに作られたケースです。堀井社長からは、「他者が、起こったこと(過去)を振り返り、(過去の)経営の判断への評価・評論することは簡単。しかし、実際経営者に求められることは、国際情勢が急速に変する中で、限られた情報で、迅速な決断をしていかねばならない、一方で、経営判断の本質的な結果が評価できるまでにはタイムラグがある場合も多い」という点が強調され、受講者は、リアルなグローバル経営の現場を想像しながら議論をしました。その中で、グローバル経営の難しさと、それを支える価値観の重要性を実感しながら、受講者同士異なる立場や視点から多様な意見が交わされ、「正解が見えない決断」に向き合う貴重な機会となりました。最後に堀井社長からは、会社の価値観と、自分の価値観が、難しい決断を下す道筋を描いてくれたことが紹介されました。

縮小が続く日本市場において、本気で「グローバルシフト」に挑む企業はどれほどあるでしょうか。しかし、変化を待つのではなく、変化を自ら作り出すことこそが、これからの日本企業に求められる姿勢なのではないでしょうか。堀井社長の講義は、単なる経営理論ではなく、実体験に基づく示唆に満ちていました。この日は深夜フライトで帰国されたばかりにもかかわらず、疲れを見せることなく「ぜひ考えてほしい」「これが大切なんだ」と語る姿から、その熱い想いがひしひしと伝わってきました。机上の学びにとどまらず、意思決定の本質や経営者としての軸を考え抜く――。まさにMBAで鍛えられる実践知を体感する講義となりました。

E10 広報委員 金品陽子

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