2026年03月06日

2026年2月、EMBA11期生の有志メンバーによる学びの機会として、岐阜県各務原市川島に所在するエーザイ株式会社川島工園を訪問し、川島工園長兼工場長である鵜飼宏治氏(以下、鵜飼氏)より事業所説明を受けました。さらに、第3剤棟・第4剤棟・EMITS(Eisai Medicine Innovation Technology Solutions:新注射剤棟/研究棟)の見学会に加え、内藤記念くすり博物館では、館長の森田宏氏による資料館紹介および見学会と貴重な機会をいただきました。
EMITSはエーザイのグローバルな製剤・モダリティ研究の中核拠点として位置づけられており、エーザイの「患者起点」の考え方に基づき、単なる技術拠点を超えて「患者に価値を届けるための実装力」としてエーザイネットワークをリードし、世界に発信されています。そこでは、抗体や抗体薬物複合体(ADC)、核酸、リポソームや脂質ナノ粒子を含む注射剤など、多様なモダリティに対応する技術基盤を備え、製剤研究から製造までを一貫して進められる体制を目指されています。製剤研究責任者である石本隼人氏(以下、石本氏)の解説や設備から、研究成果を迅速に臨床につなげる「現場力」を強く感じることができました。

EMITSにおけるデジタル化の取り組みも見逃せません。溶解や再析出といった薬物の生体内挙動を模擬する装置や、処方探索に用いるベイズ最適化(※1)などの機械学習手法を活用することで、匠の経験とデータ駆動の手法を組み合わせ、より短期間で最適な製剤設計を追求されていました。鵜飼氏、石本氏の説明からは、単に先端技術の導入だけでなく、現場での理解と運用定着を重視する姿勢が伝わってきました。ここには、内藤晴夫CEO(以下、内藤氏)が強調されている「理念の浸透は短期成果で割り切れるものではない」、「トップの言動と現場の実践が一致して初めて真の浸透が達成される」という考えが通底していました。EMITSは設備やデジタルツールへの投資に留まらず、組織文化や運用プロセスの整備という中長期的な投資を伴っていました。

内藤記念くすり博物館は「くすりに関する国内外の資料を広く収集し、過去から現代に至る知見を伝える」ことを目的に1971年に創設され、収蔵資料65,000点と収蔵図書62,000点を通して薬学・薬業の歴史やくすりの正しい使い方を社会に伝えています。同館はその公的な役割が高く評価され、2024年には登録博物館としての認定を受けています。展示物には、明治期に杉田玄白・前野良沢らが中心となり翻訳した『解体新書』の木版本があり、医療知識や用語がどのように形成され、広まっていったかという文脈が浮かび上がっていました。また、江戸期の製剤道具や薬箱、昔の調剤器具などを目にし、技術の進歩だけでなく「知の継承」がいかに大切かを実感しました。

技術革新は大前提ですが、その成果を社会に受け入れてもらうためには歴史的文脈や教育的説明が不可欠です。これは、内藤氏が説いた「理念や歴史を現場に浸透させるための中長期的投資が組織の持続的成長と社会的信頼につながる」という考えにも合致していました。先端拠点としてのEMITSと、知を伝える博物館という二つの役割が互いに補完し合うことで、技術の社会実装がより確かなものになるという印象を強く受けました。
今回の訪問は、エーザイが掲げる「技術と歴史、信頼の連携」の重要性を改めて示すものでした。EMITSでは、AIやベイズ最適化を取り入れた処方設計のDXや、治験薬の内製化を可能にする設備により、創薬から実装までの時間短縮と品質確保を同時に追求されていました。内藤記念くすり博物館は、こうした技術革新を支える社会的理解と教育の基盤を提供する場でした。内藤氏の掲げる「患者起点×データドリブン」という理念と、それを浸透させるための中長期的投資の重要性を踏まえれば、EMITSと博物館という両輪により、より多くの患者に確かな価値を届けることを可能にしていることが理解できました。
現場で日々研鑽を重ねる研究者・技術者のみならず、医療の価値を社会に発信する立場の者にとっても、深甚なる学びと将来への指針を与えるものであり、長期的な価値創造の基盤となっています。患者起点の理念に基づく研究・開発・教育の連携が深化し、より多くの患者に持続的なベネフィットを届けるための道筋の理解が一層明確になりました。
最後に、本見学の実現にあたり多大なるご尽力を賜りましたエーザイの皆さまに、改めて心より深く感謝申し上げます。
※1 ベイズ最適化:膨大な組み合わせの中から、最小限の実験回数で効率的に最適解を導き出すための手法。
文責:E11 広報委員 奥山 理沙
