2019年04月18日

お知らせ
2019年度入学式(EMBAプログラム)研究科委員長挨拶

皆さん、Executive MBAプログラム(EMBA)へようこそ。委員長の立場から本プログラムの内容、そしてどのような学生生活になるのか、皆さんにどのようなことが期待されているかを話したいと思います。

初日なので皆さん緊張していて、これから仕事をしながら毎週土曜日に学ぶのは大変ではないか、変な発言をしたら自分の会社に傷がつくのではないかなど、様々な思いを持っておられると思います。そして机の上に置いてある分厚い教科書やケースを全部読むのかと、やや不安な気持ちで参加しておられると思います。

EMBAプログラムは5年前にスタートしたので、皆さんが5期生になります。まず、このプログラムを新設した背景を説明します。日本には経営人材を育成するビジネススクールが沢山あるわけではありません。在校生、修了生の人数も多くありません。一般的に、社内で様々な職種、キャリアを経験し、場合によっては会社を移りキャリアアップをした人達が、段々に管理職、経営職になっていくという長期的なキャリアパスが日本の特徴だと認識されています。それに対して欧米では、若くして管理職、経営者に登用される人が多くいます。近年、アジアでも中国や韓国、そして東南アジアに世界レベルのビジネススクールが多く設立され、様々な人材、特に世界のビジネス界で活躍する人材が多数輩出されています。欧米のビジネススクールだけが世界の先端を走っているのではなく、中国、タイ、マレーシア、ベトナムなどから優れた人材が輩出されています。その中で、日本はこれで良いのかというのが元々の問題意識です。

すなわち、日本でも経営の中核の人材、これから企業を背負って立つ人材に早い段階から経営教育を受け、徹底的に考え抜いてもらって伸びてもらいたい。そういうリーダー育成が必要であると考え、KBSでEMBAプログラムを実現しました。15年以上の実務経験を持った人を入学対象としており、平均年齢は40歳前半、若くても30代後半で、企業や組織の中核として活躍している人達が対象です。そして、働きながら土曜日集中で学ぶ形式を取っています。時々、金曜日の夜あるいは金土日続けての合宿、1週間海外に行くといったカリキュラムがありますが、基本は土曜日です。ですから、月曜から金曜はフルに仕事をしてください。働きながら学び、学んだことをすぐに職場で実践し、職場での1週間で得たものを学校でぶつけ合う、働きながら学ぶ事がプラスになるプログラムだと考えてください。他の多くのビジネススクールには夜間のプログラムがあります。夜であると、翌日の仕事の準備で抜け出せなかったり、時には出張に行くという状況も発生します。このような環境では十分に課題を考え抜くことが出来ません。そこでKBSでは土曜日集中で、朝から夜まで学ぶカリキュラムを組みました。

次に、カリキュラムの特徴を幾つかお話ししていこうと思います。1つ目、皆さんは様々な経験値を持った人たちの集まりですが、まずはコア科目で基礎的な内容をケースメソッドにより再確認してもらいます。1科目で4日間8ケース、計8分野ありますから、来年の1月までコア科目が続きます。EMBAには公認会計士、中小企業診断士、弁護士など、資格を持っている人もいますが、ケースの中で自分の専門の知識や経験がどう活かされているのか一度棚卸しして、異業種異職種のメンバーの中で議論し、異なる見方などを学び合うことは非常に大切です。経験値を持っているからいきなり専門から入っていくのではなくて、徹底的にケースを使い教員を交えて議論をしていく過程から、皆さんが仕事の中で疑問に思っていること、課題だと感じていること、自分の中で少し足りないと思っていることを深め、知識の体系化を進めていく、これがコア科目の狙いです。同時に、意思決定をして発言することは1つのコミットメントです。例えばある時ある発言をして、その直後に全く別のことを言う人は、他の人からは信頼出来ないと見られます。発言すること自体がリーダーシップ、コミットメントを示す良い機会です。最初の1年間は、我々も単に知識を伝授するのではなく、横断的に意思決定をするための議論をしながら、皆さんに良いネットワークを作って欲しいと願っています。

コア科目のあとには多様なプログラムが用意されています。その中から幾つかのプログラムの特徴と狙いを話しておきたいと思います。来週合宿が始まりますが、これはビジョナリーと呼ばれている科目です。いきなり、40年先の社会を考えて欲しいというテーマで議論が始まります。皆さんが学位を取って活躍することももちろん大事ですが、皆さんの次の世代、その次の世代の人たちにとって良い社会とは何かを考えて欲しいというのが根本的な狙いです。すなわち、自分の職位が上がる、処遇が上がるといったことよりも大切な、先々の社会がどうあるべきか、環境の問題、ガバナンスの問題、格差の問題、色々な問題をどのように捉え、どのような社会が人々にとって良い社会なのかを考えます。そもそも良い社会とはどんな社会か、良い社会とは地域によって違うのではないか、それは今までの歴史や文化とどのように関係しているのかを、長期的な視点で徹底的に考え抜いて欲しいのです。ビジョナリーという科目は2年間続きます。そして課程修了時に皆さんの成果物をなんらかの出版物としてまとめることがアウトプットになります。基本的には2ヶ月に1回位のペースで成果報告、フィードバックを繰り返し、最後の成果物にまとめます。2年間を通して長期的視点を養って欲しいというのがビジョナリーという科目です。

2年目には、実践的な応用力を身につけることを目指す科目が用意されています。その1つが国内フィールドで、実際の企業に入り込み、その企業を徹底的に分析し、成長や改善の方向性を示すという科目です。今E4期の学生がその科目を行っています。実際の企業に入り込み、財務や人事の資料を全て見せて貰いながら会社を分析します。皆さんが1年目に学んだコア科目をそのまま応用して、より現実的な問題を扱うことで実践的な内容をカバーします。

もう1つは国際感覚の養成です。グローバルなビジネスがどんどん変化している場所に実際に出向き、何が起こっているのを見て、グループワークを行って成果をまとめてもらいます。海外フィールドは年に2回あります。1回は発展した地域、ヨーロッパなどです。もう1回はアフリカや東南アジアなど、まだ様々な課題を抱えている地域です。卒業するまでに合計4回のチャンスがあります。海外フィールドでは、事前準備を行い、1週間ほど現地に出かけ、そして事後レポートを提出します。このような形で、日本にいてはなかなか気づかない海外の動向を、現地で見てもらう科目です。加えて、海外のビジネススクールから講師を招聘する、グローバル経営という科目があります(年2回、金・土・日の3日間)。例えば、ブランドマーケティング、異なる人種の組織マネジメントなどを専門とする海外のビジネススクールの教員が英語で授業を行います。そうした教員との交流、授業を通して国際的な感覚に触れる、そういう科目も用意されています。

そして最後に経営者討論という科目です。これは月に1回です(年8回)。様々なタイプの経営者を招待し、その人の体験を話してもらって討論をします。教室の中で勉強すること、仲間と議論することにも価値があるのですが、どうしても評論家的になってしまいます。経営者は四六時中、寝る間も惜しんで、会社のことを考えています。何百人何千人の運命を握りながら、意思決定しなければなりません。そういう立場の人が何に悩み、日々どのように考えているのか、どのように意思決定しているのかに触れてもらうことにより、皆さんの視点を経営に近いところに置いて欲しいと期待して、経営者との討論を行っています。

このように、単に専門知識を徹底的に勉強するレベルから、地位的にも領域的にも時代的にも立場的にも、ストレッチして学ぶというのがEMBAプログラムの特徴です。負荷はかかるかと思いますが、この仲間で議論しながら進めていくととても充実した2年間になると思います。しばらくすると土曜日が楽しくなり、早く土曜日に議論しようという気持ちになってきます。最初は会社の鎧を着ていてケースでも発言が少なく、こんなこと言って良いのかという雰囲気がありますが、早く打ち解けていただいて、学生に戻れるという滅多に無いチャンスを利用して、自由に意見をぶつけ合い、他の人から賛成反対の意見をもらって学び、その中から経営者としての視点、海外を見る視点、実践に向けての視点、長期的視点を体得して行って欲しいと期待しています。充実した2年間を過ごして成果を収めていただくことを期待して、委員長の挨拶とします。入学おめでとう、そして2年間よろしくお願い致します。

2019年4月6日

慶應義塾大学大学院経営管理研究科

委員長 河野 宏和


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