2025年12月09日

2025年11月5日、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)の授業「持続可能性とビジネス・投資」にて、株式会社かんぽ生命保険の小林巧様にご講演いただきました。小林様は約12年にわたり「社債投資業務」に従事され、現在は「サステナブル投資」の責任者としてご活躍されています。講義では、サステナブル投資の実態について率直かつ具体的にお話しいただき、教室全体での討議は大いに盛り上がりました。
本授業では、ビジネスを通じたサステナビリティへの取り組みが注目される中、主に機関投資家の実践的見地から諸課題を考察し、討議を通じて理解を深めています。担当教員の竹林先生からは、「ESG投資で本当に中長期的な財務パフォーマンスは向上するのか?」といった、本質的かつ答えのない問いが毎回投げかけられ、教室ではKBSらしい白熱した議論が行われています。
小林様のご講演では、まず社債投資の基礎について丁寧にご説明いただき、投資期間やリターン特性など、株式投資との違いを明確に理解することができました。その上で、デット(負債)投資家の視点から見た「サステナビリティの考慮」とは何かについて、実務の中で直面された葛藤や、社内での共通理解の形成に向けた取り組みなど、リアルな経験を共有いただきました。さらに、スチュワードシップ・コードの実務への適用や、ネガティブ・スクリーニングと実利とのバランスといった、サステナブル投資における本質的な課題にも踏み込んでいただき、受講生にとって、深い洞察を得られる貴重な時間となりました。
社債投資家は「議決権」を持たず、キャピタルゲインなどの「アップサイド」も限定的であるため、投資先企業とのエンゲージメント活動には独特の難しさがあります。例えば、株式投資ではすぐに取れるアポイントが、社債投資では投資先企業における相対的な優先度が異なるため、アポイントが取れるまで時間がかかることもある。また、応対する部署が異なるため、体制や質問に対する対応が異なることもあるそうです。そのような状況下で、キャピタルリターンのない社債投資においてサステナビリティを評価する意味とは何か。小林氏は「社債投資では、事業の安定性に資するサステナビリティ要素の絞り込みや、質問の切り口を検討すべき」との見解を示され、大変示唆に富む内容となりました。
講演後の討議タイムでは、受講生からの質問が止まらず、時間を超えて14件もの質問に真摯にご回答いただきました。「インパクト投資」「産学連携」「ESG評価基準」「競合との差別化」「投資撤退基準」など、質問は多岐にわたりました。中でも印象的だったのは、サステナビリティの専門性が高まる中での「人材育成」に関するご回答です。小林氏は日頃から、専門書籍やPDFレポートを読み、社外との対話を通じたネットワーキングに参加し、そこで得た知見をメンバーに権限移譲していくという姿勢を紹介されました。アセットオーナーとして理想と現実に真剣に向き合う「情熱」に触れ、受講生のモチベーションも大きく高まったように感じます。
ご多忙の中、貴重なお時間をいただきましたこと、この場を借りて心より御礼申し上げます。
文責:E11 江島勇志
