2025年12月12日

9月にKBSで開催された「経営者討論A」の授業において、株式会社 晃祐堂(以下、晃祐堂)の取締役社長 土屋武美氏にご登壇いただきました。晃祐堂は1978年に日本一の筆の生産地である広島県熊野町で創業され、高品質な筆の在り方を追求、創造し続けている会社です。その事業・企業姿勢は数々の表彰を受けています。
講義で学んだ経営理念「筆を通して、世の中に笑顔を喜びと勇気を与える」を実現するため、「伝統と革新」(伝統的な技能と新たな技術のハイブリッド)を推し進める経営戦略が、現場、組織、地域でどのように現実のものとなっているか、肌で感じ学びをより深めたいという学生からの希望を土屋社長に聞き入れていただき、EMBA1年生(E11)有志による広島での見学会が実現しました。
2025年11月17日(月)早朝に東京を出発し、晃祐堂(熊野町)を訪問しました。現地では社長をはじめ従業員の皆さまに暖かく迎えていただき、工場見学や意見交換を通じて現場の実態と地域の課題についてお話を伺いました。
工場見学では、化粧筆を中心とした高付加価値品を少量多品種で生産する現場を拝見しました。工場は驚くほど清潔かつ整然としており、在庫を最小限に抑える運営が徹底されていました。社内の空間や動線が「会社の顔」として整えられていることは、製品の信頼感やブランドイメージの裏付けになっていると感じました。また、晃祐堂は伝統的な熊野筆の伝統技術を活かしつつ、メディア展開やAI活用などにより事業ドメインを転換し、新たな市場を切り拓いています。熊野筆祭りを年2回開催するなど 自社だけでなく、地域へのへの働きかけも積極的に行い、町全体に好影響を与えている様子が伝わってきました。
オープンな意見交換会では、経営改革を推進する土屋社長のリーダーシップと、それに対する社員の方々の受け止め方についてお話しを伺いました。新しい挑戦に対しては戸惑いや反発もあったものの、結果を示すことで周囲が納得していったこと、スピード感をもって改革を進める覚悟が従業員に伝わっていて、熊野町という地域に対する強い想いが共有されていることを改めて確認することができました。高付加価値生産へとシフトした戦略は、きれいな現場という目に見える取り組みと、従業員の意識変化という目に見えない要素の双方が揃って初めて機能するということも印象的でした。

見学後の懇親会では、地域経済が直面する課題について率直な議論が交わされました。後継者不足や若者の都市流出といった地方共通の構造的課題が改めて浮き彫りになり、講義で学んだマクロな視点が現場の経営者の言葉として胸に迫りました。一方で、ご参加いただいた皆さまの言葉から、経営者同士が業種の垣根を越えて連携し、力強い熱量で立ち向かう姿を目の当たりにしました。限られた資源の中で「人と人との結びつき」が新たな工夫や支えを生み出している点は、地方における重要な強みであると実感しました。
今回の訪問を通じ、講義で学んだ「伝統と革新」「戦略と現場」というキーワードが具体的にどのように組織と地域で実践されているか、五感を通じて学ぶことができました。特に、経営改革を推進するリーダーシップ、現場の規律、そして地域との協働が一体となって初めて戦略が機能することを強く認識しました。EMBAプログラムの目的である中長期的視点に立った企業経営の考察にとって、有意義な学びの機会となりました。
最後に、ご多忙の中ご対応いただいた晃祐堂の皆さま、ならびに地域の関係者の皆さまに深く御礼申し上げます。貴重な機会を誠にありがとうございました。
文責:E11 広報委員 奥山 理沙
